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スリリングに読ませる、
ドーピングの闇。
~『シークレット・レース』を読む~ 

text by

馬立勝

馬立勝Masaru Madate

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posted2014/03/11 10:00

スリリングに読ませる、ドーピングの闇。~『シークレット・レース』を読む~<Number Web> photograph by Sports Graphic Number

『シークレット・レース ツール・ド・フランスの知られざる内幕』タイラー・ハミルトン/ダニエル・コイル著 児島修訳 小学館文庫 886円+税

 人気スポーツは巨額の金を呼ぶ。金の集まるところ腐敗が生まれる。世界最高の自転車ロードレース、ツール・ド・フランス、本書はここがドーピング競争の舞台であることを暴露した。

 著者のタイラー・ハミルトンはアテネ五輪の個人タイムトライアルの金メダリストで8年後に優勝を取り消された不正薬物使用選手だ。ドーピングに手を染めたのはプロ選手となってチームに加わり、ヨーロッパを転戦して3年目の1997年だった。敗戦が続き、チームから白い袋を渡される自分より実力下の選手が勝ってしまう現実。「これはフェアじゃない」、自分も白い袋を受け取って走れば……そう考え始めた時、チームドクターから「ツールのメンバーに選ばれるために健康になれ」とささやかれ、注射をした。後は転落の道一筋。そして、同じチームのランス・アームストロングの汚れたツール7連覇をアシストすることになる。

薬物で汚されたツールの構図が率直に生々しく語られる。

 ハミルトンの語りは率直で生々しい。チーム支援の車はパフォーマンス向上薬物の配送車だ。選手はまるで人間試験管だ。採血され、様々な数値が検査されて、それに見合った処理をされた血液をまた体に戻されて走り続ける。微に入り細を穿ったドーピングの描写は何ともおぞましい。チームオーナーやスポンサー、レース主催者、国際自転車競技連合(UCI)には配慮して書いているが、2012年に全米反ドーピング機関(USADA)が発表したアームストロングのツール7連覇剥奪を含む成績抹消と永久追放とが定まった今から見れば、上層部が商売優先で見て見ぬふりだったのは明らかだ。1990年代から20年近く続いた大リーグの“ステロイド時代”の構図と重なってため息がでる。

 本書は実に面白い。共著者の作家、ダニエル・コイルの手腕だ。ハミルトン一人称の葛藤と罪悪感を抱えた告白で人間の弱さを訴え、暴露の信頼性をコイル独自の取材で補強し、三人称で随所に短く挿入した。スリリングな展開はハリウッドの娯楽ドキュ・ドラマの秀作を観るようで、550ページを一気に読ませる。全スポーツに共通のドーピングの闇を伝える問題作だ。

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