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<モーグル、Wエースの現在地> 伊藤みき×上村愛子 「不屈の決意を抱いて」 

text by

松原孝臣

松原孝臣Takaomi Matsubara

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photograph byShino Seki

posted2014/02/06 06:15

<モーグル、Wエースの現在地> 伊藤みき×上村愛子 「不屈の決意を抱いて」<Number Web> photograph by Shino Seki

みんなうまくなったから、日本のモーグル、すごいな。

 34歳。いつの間にか、ナショナルチーム最年長である。その間に伊藤が台頭したのをはじめ、若い選手が増えてきた。バンクーバー五輪で8位入賞した村田もそうだし、男子もメダルを狙える位置にいるのが日本である。そうした状況をどう捉えているのか。

 すると、「心強い」と答え、続けた。

「前は自分がやらなきゃ、という意識が強かったんですね。でもメンバーがそろっているのでそういう感覚を持たなくて済みます。みんなうまくなったから、すごいうれしくて、日本のモーグル、すごいなと思ってる」

 今まで、エースと呼ばれ、注目を一身に集めてきた。期待に応えようとした。その重圧は大きかったに違いない。そして解放されたということかもしれない。

 それでも、下の世代が追い上げてきたことを意識しなかったのだろうか。

「前はね、下の子が出てきて、気持ち的にちょっと、というときがあったような気もしますし、あまり一緒にいないようにしたりもしましたけどね。でも今は違いますね」

 そう語るさまはナチュラルさ、しなやかさを感じさせもする。すると上村は笑った。

「そう! 昔は、『私、折れちゃう』みたいな感じでしたもん。けっこうガラスっぽかったなと」

「今までより気持ちは楽」と語った上村だったが……。

 ソチへの抱負についてはこう答えた。

「一番にはなりたいし、トレーニングも強くなりたい、いい滑りがしたいからというのもあるけれど、トレーニングすること自体がチャレンジじゃないですか、毎日。それが楽しくて、まだやってるのかな、と」

 長期のブランクがありながら、昨シーズン、ソチでの大会を含めワールドカップで2度表彰台に上がった。世界選手権でも5位と上々の結果を残せた。心持ちにも変化がある。

「今まではオリンピックイヤーになると、焦ったり、自分をもっと上げなきゃと不安になってたんですね。でも今はエアやターン、スピードをよくするには地道にこつこつやるしかないと思っていて、焦りとかない。練習をしっかりできているからかもしれないと思う。自分としては今までより気持ちは楽」

 日本のエースとして、やらなければいけないという重荷を背負ったこれまでとは異なる姿があった。

 しかし、ソチ五輪2カ月前に、2人を取り巻く状況は一変する。

【次ページ】 五輪が間近に迫る中、伊藤は右膝に大怪我を負った。

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