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日本人がドイツ代表の分析チームに?
『チーム・ケルン』と大学生の物語。 

text by

木崎伸也

木崎伸也Shinya Kizaki

PROFILE

photograph byYuki Hamano

posted2014/01/31 16:30

日本人がドイツ代表の分析チームに?『チーム・ケルン』と大学生の物語。<Number Web> photograph by Yuki Hamano

ドイツ代表の分析チーム『チーム・ケルン』の一員の浜野裕樹。ケルンのサッカークラブでコーチもしているという。

W杯予選における、ある選手の全プレーを分析する経験。

 浜野が最も大変だったと記憶しているのがセットプレーの分析だ。CKとFKで誰がどこに蹴ったかを記録していく。

「流れは見なくていいから、セットプレーだけを見ろと。ワードとエクセルを使って、詳細を書き込んでいきます。さらに守備のとき、ポストに何人立って、マイボールにしたらどう攻めるかとか。なぜ記憶に残っているかというと、最も時間がかかる作業だったからです(笑)。小さなディテールがとても大切。セットプレーは試合を決定付ける要因のひとつになりえるので、相手の形を見分けなければなりません」

 訓練が進むと、いよいよ課題がW杯予選でドイツと対戦するチームになった(それまでも自然な形で対戦国の分析が課題に繰り込まれていたが、よりそれが明確になった)。浜野はスウェーデン代表のDFが割り当てられ、今回のW杯予選における当該選手の全プレーを分析した。

「誰にパスしたかはもちろん、どちらの足でトラップしたか、どちらの足でジャンプしたかまで記録する。イブラヒモビッチが割り当てられた学生は、プレーの回数が多いので大変そうでした(笑)」

 ちなみにこの作業はすべて無報酬で、完全なボランティアだ。だが、学生にとって、ドイツ代表をサポートできるのは最高の名誉。何より作業そのものが職業訓練になっており、将来の就職活動にもつながっている。

「本当にウィン・ウィンの関係ですよね。学生にとっては最高の経験になります」

代表のポロシャツに、レーブ監督からのメッセージ。

 12月中旬、ブラジルW杯の抽選結果を受け、『チーム・ケルン』の決起集会がケルンの高級ホテルで行なわれた。学生分析チームを束ねるシュテファン・ノップとユルゲン・ブシュマン教授はもちろん、ドイツ代表のアシスタントコーチのハンズィ・フリックとスカウト主任のウァ・ジンゲンタラーも駆けつけ、1人ひとりにドイツ代表のエンブレムが入ったポロシャツが手渡された。レーブ監督からのビデオメッセージも流され、学生から大歓声が沸き上がった。

 そして、この日のメインイベントは、分析のグループ分けだ。学生をグループに分け、それぞれに出場国が割り当てられた。浜野はこれからグループの仲間とともに、全力で分析に取り組んで行くことになる。

「こういうタスクに関わることができ、本当に光栄です。留学するタイミングが本当に良かった。将来は指導者を目指しているので、この経験を生かせるように頑張りたいです」

 情報戦の重要性はどの国も理解しているだろうが、これほど大掛かりに分析している国はドイツ以外にないだろう。残り約5カ月、浜野にとって、これまでで最もハードで、最も幸せな時間になるに違いない。

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浜野裕樹

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