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年末の格闘技2大興行の真実。
地上波では観れなかったベストバウト。 

text by

橋本宗洋

橋本宗洋Norihiro Hashimoto

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photograph bySusumu Nagao

posted2011/01/07 10:30

年末の格闘技2大興行の真実。地上波では観れなかったベストバウト。<Number Web> photograph by Susumu Nagao

『戦極Soul of Fight』のメインイベント。腕十字は決まらなかったものの、日沖発は終始、マルロン・サンドロを圧倒した

 2010年の年末は、格闘技史上初のビッグイベント連続開催となった。

『戦極Soul of Fight』(12月30日、有明コロシアム)と『Dynamite!!』(12月31日、さいたまスーパーアリーナ)である。行なわれた試合は2日で42試合。これだけのボリュームがありながら、それぞれのベストバウトは、いずれも“世間一般”の目には触れなかった。

『戦極』では日沖発がマルロン・サンドロを下して、SRCフェザー級タイトルを奪取した試合が観客を最も興奮させた。だがこのイベントはCSでしか放送されていない。

『Dynamite!!』でファンの溜飲を下げたのは川尻達也がジョシュ・トムソンに勝ったことだったが、地上波中継では、試合の断片のみがわずかに流された程度。大きく扱われたのは長島☆自演乙☆雄一郎と青木真也のミックスルールマッチであり、石井慧がK-1ファイターであるジェロム・レ・バンナ相手に寝技で手こずる場面であり、元プロ野球選手の古木克明がデビューした試合だった。

 格闘技ファンが興奮した試合と、テレビ局が「ウケる」と判断したものにはとてつもない乖離があったのだ。

 地上波テレビがつかない興行のメインイベントと、テレビ局に視聴率が取れないと判断された試合。しかしそこには、濃密な勝負論とテーマ性が存在した。

会場が沸いた、2人の日本人選手の勝利。

 サンドロはこの試合まで3戦連続で1ラウンドKO勝利。フェザー級王座を獲得した試合では金原正徳を38秒で失神に追い込んでいる。そんなサンドロを、日沖は驚くほどの冷静さで追い込んでいった。秒殺を繰り返してきた拳を恐れることなく前進し、ジャブと前蹴りで着実に体力を削っていく。

 3ラウンドにはマウントパンチとアームロックで山場を作り、4ラウンドにサンドロがテイクダウン中心に作戦を変えてもしっかり対処。5ラウンドにはアームロックから腕十字の連続攻撃でタップアウトもしくはレフェリーストップ寸前に追い込んだ。

 サンドロが絶対的とも思える強さを発揮するチャンピオンだったからこそ、その牙城を攻略してみせた日沖が輝いたのだ。

 一方、川尻と対戦したトムソンは、UFCに次ぐアメリカのメジャー団体『STRIKEFORCE』のライト級トップコンテンダーである。つまりこの試合は、4月にナッシュビルで行なわれたギルバート・メレンデスvs.青木真也の王者対決が伏線になっていた。

【次ページ】 自演乙に完敗した青木と、青木の仇を討った川尻と。

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日沖発
川尻達也
マルロン・サンドロ
ジョシュ・トムソン

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