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最後の国立を制した富山第一高校。
“寮を作らない”地元選手の育成法。 

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茂野聡士

茂野聡士Satoshi Shigeno

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photograph byYUTAKA/AFLO SPORT

posted2014/01/14 12:00

最後の国立を制した富山第一高校。“寮を作らない”地元選手の育成法。<Number Web> photograph by YUTAKA/AFLO SPORT

優勝旗を手にはにかむ大塚翔と、それを見つめる大塚一朗監督。地域密着型で成し遂げた優勝は、高校サッカーを変えるのだろうか。

25人中23人が富山県内の選手。寮は存在しない。

「これは富山県民の皆さんの後押しがあったからこそだと思いますし、富山出身の選手でここまでやれたというのは『日本の育成』という部分で変わってくるんじゃないかなと思います」

 富山第一は、本大会に登録された25人中23人が富山県内の出身選手だった。親元から通える環境を整えることを重要視し、寮を作らなかったという。

 富山第一を率いる大塚監督はヨーロッパで指導ライセンスを取得し、アルビレックス新潟シンガポールで指揮を執るなど海外での豊富な経験を持つ。そこで得たものが、'12年から監督に就任した富山第一のサッカー部にも注入されている。

「僕がイギリスにいた時、(イングランド北西部の都市・チェスター出身である)マイケル・オーウェンはバーミンガムに寄宿させて育てられたと報じられていました。しかしその後の2、3年で、一カ所で優秀な選手を輩出するより、ノウハウを各クラブに預けて良い選手を出そうという取り組みが始まりました。特にチェルシーなどのクラブの下部組織は、親元から通えないと入れないシステムだった。これは日本にも適用できるんじゃないかと思ったのです」

10番を背負った実の息子だけでなく、全員が家族。

 10番を背負った大塚翔との親子鷹が注目された指揮官だったが、終了直後の優勝インタビューで「僕は息子と娘が99人いると思っています」と言ったように、選手、そして彼ら彼女たちに関わる人々を含めて“富山で育った家族”として捉えているのだ。

 地元で生まれ育った選手をそのまま育て上げるシステムが、この1年間で残してきた成果は大きかった。

 '13年はユース世代でのトップリーグである、高円宮杯プレミアリーグWESTを戦った。優勝した神戸ユースや多くの代表選手を輩出した広島ユース、C大阪ユースなどのJクラブや東福岡高校としのぎを削り、最終的に'14シーズンのプレミア残留を果たしている。星稜戦で1点差に詰め寄るゴールを決めた高浪もプレミアリーグでチームトップタイの6得点を決めるなど、強豪との戦いを通じてチームと個人両方で力を磨き上げていた。

【次ページ】 “ビッグクラブ”と“地域密着”の意地がぶつかった。

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