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田中に唯一の黒星をつけた男。
菅野智之は繊細な指先で勝負する! 

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鷲田康

鷲田康Yasushi Washida

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photograph byHideki Sugiyama

posted2014/01/05 08:01

田中に唯一の黒星をつけた男。菅野智之は繊細な指先で勝負する!<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

日本シリーズ第2戦でフォークを投じる菅野智之。シーズンでは13勝6敗、防御率3.12と、ルーキーながら上々の成績を残した。

 24勝無敗――。

 楽天・田中将大投手が作ったこのプロ野球記録は、おそらく今後、だれも破ることのできないアンタッチャブルレコードとして球史に残るはずである。

 そしてこの無敗記録がさん然と輝けば輝くほど、もう一つ、その田中に昨年、唯一の黒星をつけた投手の存在感も、また大きくクローズアップされるものとなるはずだ。

 楽天が王手をかけた日本シリーズ第6戦。日本一へ満を持してマウンドに上がった田中の前に立ちふさがったのは、巨人の菅野智之だった。

 第2戦でも同じ顔合わせで投げ合った両投手。そのときは巨人打線を3安打1失点と、ほぼ完璧に抑え込んだ田中に軍配が上がっている。

 ところが、誰もが田中の力投で楽天が日本一の座を手中におさめると思っていたこの第6戦は違った。今度は菅野が、あの無敗投手にリベンジを果たしたのである。7回まで楽天打線を3安打2失点に抑え込み、完投はしたが4失点した田中に投げ勝った。

 そうして菅野は、田中に2013年唯一の黒星をつけた投手となった。

同じ失敗を繰り返さない、という一流投手の素養。

「彼の一番素晴らしいところは、同じ失敗を続けて2度はしない。悪かった部分を必ず修正して、次の試合では消してくる。精神的にも技術的にも、そういう風に立て直せる柔軟性を持っていることです。その能力が1年目であれだけの成績(13勝6敗)につながっているんだと思います」

 こう語るのは巨人の投手陣をあずかる川口和久投手総合コーチだった。

 確かにプロ1年目ながら菅野はしたたかだった。

 それはシーズンを通じて連敗がなかったことにも表れている。黒星を喫した次のマウンドでは、課題となったポイントをしっかり修正して、同じ失敗は繰り返さなかった――こう語ると、そんなことはプロの投手なら当たり前のように聞こえるかもしれない。しかし、実際はその当たり前のことを、多くの投手が出来ないままに次のマウンドに上がって同じ失敗を繰り返す。

 それをいとも簡単に(本人にしてみれば簡単ではないのだろうが、周囲からはそう見える)修正してしまうところが、目立たないが菅野の一流投手として一番の素養なのである。

【次ページ】 「覚えようと思って覚えられなかった球種はない」

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