ロングトレイル奮踏記BACK NUMBER

「See You On The Trail」
4200km踏破で見えたもの。 

text by

井手裕介

井手裕介Yusuke Ide

PROFILE

photograph byYusuke Ide

posted2013/12/13 10:30

「See You On The Trail」4200km踏破で見えたもの。<Number Web> photograph by Yusuke Ide

4200kmを踏破し、PCTのゴール地点に辿りついた井手くん。

 10月の中旬、大型台風が日本を直撃したその日、僕は日本に帰ってきた。

 前日まで厄介になっていたのは、サンタモニカに住むJessicaの家。彼女との出会いはPCTを歩き始める前で(第2回コラム参照)、まさかこうして大きな円を描いて彼女の元に帰ってくるなんて。隣に座ったMittalは、半年前にはいなかった新しい家族を腕に抱えていた。そうだ、あの時彼女は大きなお腹を揺らしながらビーチを歩いていたっけ。

再会したJessica(右)と子どもを抱えるMittal。 

 台風が幾つか通りすぎたある日。慣れた日本の左車線を運転していると、カーステレオから流れてきたJUDY AND MARYの歌詞がふいに胸に鋭く突き刺さった。

「思い出はいつもきれいだけど、それだけじゃお腹がすくわ」

 迂闊だった。まさかYUKIに泣かされるなんて。僕は車を横道に泊めて窓を開ける。雨上がりの空。雲間からのぞく青空の美しさ。雲や太陽の光に随分と敏感になっていることに気付く。こんな感覚も、次第に錆びついてしまうのだろうか。だとしたら、なんだかとても切ない。

 地球の向こう側にいる仲間たちのことを考える。カリフォルニアの乾いた空気、ポートランドのクリーンな街並み、雨続きだったシアトル。トレイルで出会った仲間たちの家をホッピングしながら、西海岸の大都市を旅したのだった。スタート地点はカナダ、ブリティッシュコロンビアのバンクーバー。

 そう、PCTのゴール地点であるカナダから、僕のもう一つの旅は始まったのだ。

ついにたどりついた、国境地点。

 カナダとの国境地点にたどり着いたのは9月24日、相棒Lucky manと共に吹雪の中を2日歩いた後のことだった。木々が国境線に沿って綺麗に刈り取られているのが、遠くからも見えた。僕たちは顔を見合わせる。何も言葉を交わす必要はない。ついにたどり着いたのだ。

ゴール地点にあるモニュメント。手前の柱を解体するとサインブックが出てくる。 

 記念写真をとり、サインブックにサインをすませる。さて、何を書いたらいいのだろう旅立つ時、僕を良く知る人達は言ってくれた。

「俺達が望んでいるのはお前がカナダにたどり着くことじゃなくてさ、お前が無事に日本に戻ってくることなんだよ」

「もしかしたら道を全てつなぐのは厳しいかもしれない。でも、自分でやりたいことに挑戦していくお前を尊敬しているよ」

 嬉しい言葉だった。しかしその一方で、悔しかった。心のどこかで、絶対にゴールまでたどり着いて彼らを見返してやりたいという思いがあった。ゴール地点に立ち「どうだ、えっへん。僕はやってやったぞ」と。

【次ページ】 終わってしまう、シャシンカと呼ばれた日々。

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