ロングトレイル奮踏記BACK NUMBER

雷と雹で足止めされ、残雪で滑落。
PCT終盤で思い知らされた山の怖さ。 

text by

井手裕介

井手裕介Yusuke Ide

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photograph byYusuke Ide

posted2013/11/10 08:00

雷と雹で足止めされ、残雪で滑落。PCT終盤で思い知らされた山の怖さ。<Number Web> photograph by Yusuke Ide

マウント・アダムズを眺めながら歩く井手くん。この直後から天候が崩れ始めた。

 ワシントンとオレゴン州境の町Cascade Locksを出てから3日目のこと。予定では飛ばすつもりだった、小さなコミュニティに降りてきた。7日分の食糧を積んだつもりが、どうも1日分ほど、足りなそうに感じてしまったからだ。

 トレイルからのヒッチハイクに応じてくれた女性2人は、この季節になるとハックルベリーを摘みにこの辺りにやってくるのだとか。確かに、トレイル脇には、野生のハックルベリーが群生していた。

ついにカナダ国境と接するワシントン州に入った。 

 『カントリーロード』が流れるような小さい田舎町にあるストアで食糧を買い足す。貧乏性なのか、わざわざ降りてきて1日分だけ買い足すのをバカバカしく感じ、多めにパンを買った。小さなストアなので品揃えが豊富とは言えず、僕が買ったのも業務用のバーガーパティだ。まあ、食べられればなんでもいいだろう。

 ボロボロのストアにもかかわらず、抜群に速いWi-Fiが飛んでいるのが、なんだかアメリカらしい。さすがインターネットを生んだ国である。これまでも、こんな感じで電波を拾っては、この原稿のやり取りなどをしてきた。

「見たことのない」雷雨の可能性100%。

 天気予報を携帯でチェックすると、3日後に雷雨が来るという。店に来ていた地元の人たちは「学校が始まったばかりなのに」と肩を落とす。画面に表示された天気予報によれば、降水確率は100%だという。

馬が来たら道を譲る、これがアメリカのトレイルでのルール。 

 店で再会したバックパッカーのTea Timeは、100%なんて数字は見たことがないと驚いていた。ちなみに彼はシェフとしての腕を生かしながら国立公園のリゾート地を渡り歩いているという、ユニークなハンサムガイだ。

 しかしまあ、明日ならともかく、3日後に雷となると、この小さな町にいつまでも停滞するわけにもいかない。病気で2週間も停滞してしまった自分に、選択の余地はないだろう。

 Tea Time、そしてOtterという過去にPCTを何度も踏破したことがあるらしい初老のバックパッカーと共にトレイルに戻ることにした。なんでもOtterはPCTを舞台とした小説を書いている作家らしい。「カワウソ」というトレイルネームからは似ても似つかぬ強面の老人だ。

 この先はアメリカのトレイルには珍しく、稜線歩きが楽しめる、絶景で知られるエリアだ。景色が楽しめないのは勿論残念だが、雷の中を稜線に出るわけにはいかないだろう。臨機応変に対応することが求められそうだ。

【次ページ】 雷の音に怯え、霧の中を進むと……。

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