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氷中の本は、熱を孕んでいる。
~伊東武彦・著『アイスタイム』~ 

text by

幅允孝

幅允孝Yoshitaka Haba

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photograph byRyo Suzuki

posted2013/10/29 00:00

氷中の本は、熱を孕んでいる。~伊東武彦・著『アイスタイム』~<Number Web> photograph by Ryo Suzuki

『アイスタイム 鈴木貴人と日光アイスバックスの1500日』伊東武彦著 講談社 1800円+税

 氷の上に逃げ場はない。白線の向こう側にボールが出たらスローインだなんて、ずいぶん悠長な話なのだ。アイスホッケーの選手たちは、約60m×30mのボードに囲まれた決闘場で、いつだって相手とぶつかり、怪我をし、それでもまた殴り返す。チームが弱かろうが、給料が遅延していようが、関係ない。アイスホッケーは、冷たい氷の上で自分を放熱させるスポーツだからだ。

 2004年から日本代表のキャプテンとして長年アイスホッケー界を牽引してきた鈴木貴人。所属チームの突然の廃部に遭遇した彼は、小学校時代からの親友である村井忠寛が率いる日光アイスバックスへの入団を決意する。

解雇される選手、野次……アイスホッケーが孕む熱。

 タイトルにもなっている「アイスタイム」というのは氷上でプレイする時間のこと。残り少ないアイスタイムを過ごすのに、最もタフな戦場を選んだ鈴木の活躍と苦悩を中心に、アイスバックスを巡るさまざまな人間模様が丹念な取材によってあぶり出される。

 スター選手の「いい話」? とんでもない。解雇される者、次の人生に踏み出す者、お金を生み出そうと足掻く者、野次るファン、お年玉を寄付する子供、すべてがアイスバックスの一部なのだ。そして、読者も必ずや、このチームに参加したくなるはず。そんな熱をも孕む渾身の氷上ノンフィクション。読後はみなで、日光霧降アイスアリーナで会いましょう。

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