選手と監督として、2人には信頼関係があった。

　断っておくが、もちろん落合GMと谷繁監督の意見が対立すると決めつけるつもりはまったくない。

「8年間、一緒にやってきた。僕の考え方も分かって下さっているし、落合さんの野球に対する考え方も多少なりとも分かっている。そういうことを考えると、意見を言えたりすると思う」

　10月10日の就任会見で谷繁新監督は、落合GMとの連携についての質問が飛ぶと、こう応えている。

　落合GMは、監督時代には捕手・谷繁の力を最も高く評価し、選手・谷繁も落合監督を最も信頼していた一人であった。だからこの組み合わせが成立したわけでもある。落合GMが現場に口を出さずにチーム編成に専念するかもしれないし、逆に谷繁新監督が自分の色にこだわらずに、落合GMの意向を反映したチーム運営を行なうかもしれない。

　ただ、これから谷繁監督は、監督という立場で、現場の最高責任者として振る舞わなければならないし、そういう立場で落合GMとの関係を築かなければならない。

　立場が変わることで、それまでとは全く違う関係性が生まれることは、実社会では当たり前にあり得ることでもあるのだ。

フロントと現場として、新たな関係が始まる。

「正直、えっ、自分がという感じ。いつかこうなる日が来るかなとは、ほんの少し思っていた。ただ、自分でムリと思うと、すべてが止まってしまう」

　会見ではこう語ったように兼任監督就任には戸惑いもあったという谷繁新監督だが、決断した背景には森ヘッドコーチの存在があったからという。

　もちろん投手交代や采配面でのフォローという側面が現実的に一番大きいが、同時に実は落合GMと谷繁監督のパイプ役としての役割こそが森ヘッドコーチの一番の仕事なのかもしれない。

『マネー・ボール』的視点で言えば、編成上やチームの長期的展望からフロント（GM）が使いたい選手と、目の前の戦いを勝ち抜くために現場が使いたい選手とは、意見が食い違うケースが出てくるかもしれない。

　そんなときに落合GMも一目置く森ヘッドコーチが、いかにGMを説得し、現場の意向を反映できるか。新体制の前途は、そこから広がるはずである。