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下痢と腹痛に悩まされながら、
自らの足でオレゴンへ辿り着く。 

text by

井手裕介

井手裕介Yusuke Ide

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photograph byYusuke Ide

posted2013/10/17 06:00

下痢と腹痛に悩まされながら、自らの足でオレゴンへ辿り着く。<Number Web> photograph by Yusuke Ide

長かったカリフォルニアを抜け、オレゴンに達した井手くん。

腹痛を抱えながら、都市の生活をエンジョイ。

 腹の痛みは収まらず、やりきれない思いだったが、2日を家主のいない家に泊めてもらい、僕は都市の生活をエンジョイした。

 いじけていても仕方ないので、もうこの町に住むくらいの勢いで。

 大学の図書館や古本屋、レコードショップに映画館。スケートパークにコーヒーショップ。町を歩けば変わった人たちに当たる。

 退屈こそしないものの、気持ちは焦るし、なんだか寂しい。

 家主のTomyが帰ってきたその日に言う。

「これから一週間ほど娘の結婚式で家を空けるから、今夜から友人の家に泊まってくれないか。すごく信頼できる人なんだ」

 何日も泊めてもらっただけでも申し訳ないのに、次の宿を紹介してくれるなんて。

アメリカ人の暮らしを覗き見るのは楽しい。

 彼の紹介で連れて行ってもらったのは、女性の家だった。名をSunshine。絶対に本名ではないだろう。Tomyとやけにベタベタするので僕は目を逸らす。

 Tomyは若い見た目にも関わらず70歳と話していたから、彼女もそれなりの歳だろう。彼がいなくなった後、Sunshineは教えてくれる。

「元夫婦みたいなものなのよ」

 事実婚ってやつみたいだ。なるほど。

 何日も人の家に厄介になるのは本当に申し訳ない。これまでもエンジェルの家に泊めてもらったことはあったが、気を使う一方で、アメリカ人のリアルな暮らしを覗き見出来るのが面白い。

 Sunshineの息子さんはテレビゲームに夢中だ。任天堂のゲーム機を見つけ、なんだか懐かしい。

 彼女は映画好きらしく、DVDのレパートリーがとんでもない。

 僕も好きな映画『リトル・ミス・サンシャイン』を見つけてしばし話す。そういえば、Ted(前回のコラム参照)はこの映画に出てくるアラン・アーキンが好きだと話していた。

 ロケ地の一つであるVasquez Rocksはハイカーズヘブンの近く。僕も足で歩いてきた地域だ。黄色いフォルクスワーゲンは乾いた大地をカリフォルニアに向かってひた走る。

 なんだか懐かしい。もう2カ月以上前の話だ。いや、そんなに昔の話でもないか。

【次ページ】 僕は本当にトレイルに戻れるのだろうか。

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