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1785日ぶり勝利の“新生”片山晋呉。
オーガスタへ忘れ物を取りに行く。 

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桂川洋一

桂川洋一Yoichi Katsuragawa

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photograph byKYODO

posted2013/10/09 11:00

1785日ぶり勝利の“新生”片山晋呉。オーガスタへ忘れ物を取りに行く。<Number Web> photograph by KYODO

2008年11月の三井住友VISA太平洋マスターズ以来の優勝となった片山晋呉は「自分の技術が発揮できたので、これからも28勝、29勝と重ねたい」と語った。

40歳になり、8ヤード伸びた飛距離の理由。

 片山に爆発力をつけたのは、近年世界のゴルフシーンを席巻するパワーゴルフ、そしてビッグスコアに繋がるプレースタイルへの積極的な取り組みである。

 マシンのようなショットの正確性を持ちながらも飛距離で後れをとっていた片山だが、40歳になった今年、ドライバーショットの飛距離が昨年よりも平均8ヤードも伸びた。より飛ぶギアの選別、トレーニングと同様に、以前よりも大きな弧を描くスイングへの改造に勤しんできた成果だった。

 アイアンショットでも積極性が増した。コカ・コーラ東海クラシックで、首位に1打ビハインドで迎えた最終ホールでの第2打。少し深いセミラフから9番アイアンを強振し、ピン右3メートルにつけるスーパーショットを放つ。3ヤード右に打ち出したら池に入るリスクがあったが、それを顧みなかった。よりアグレッシブにバーディを奪いに行く姿勢について「今までは打てなかったショット。これを打つためにやってきた」と自ら進化を口にしたのである。

2016年を見据え、一歩先を歩く自己変革。

 それに加え、パッティングにおいては、誰よりも先進的な考えを持っていた。片山は数年前から長尺、中尺パターを愛用してきた。だが2016年からの新ルールでは、これらのパターのグリップなどを体に密着させ、支点を作って打つ「アンカリング」が世界的に禁止される。多くの選手は頭を悩ませており、長尺を握る中嶋常幸、兼本貴司などは「2015年までに稼ぐ。それで引退だ」なんて冗談とも本気ともつかぬ言葉を発している。

 だが片山は違った。まだルール問題の議論が欧米で始まったばかりの昨季初めの段階から、中尺パターを体には接着させない打ち方を実戦で模索し始めていた。誰よりも早く対策を講じていたのは、もちろん'16年よりも先を見据えていたからだった。

 身体能力が下降線をたどる「アラフォー、ベテラン」といったフレーズは、「我慢、小技、いぶし銀」という言葉を連想させる。しかし片山は、堅実な技のレベルをキープしつつ、時代の流れをいち早く汲み取り、今後のゴルフ界が求めるプレースタイルに変貌を遂げていた。

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