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白鵬、最大の敗因は
「張り差し」にあり。
~稀勢の里との一戦を詳細分析~ 

text by

服部祐兒

服部祐兒Yuji Hattori

PROFILE

photograph byKYODO

posted2010/12/11 08:00

白鵬を寄り切りで下した、稀勢の里(手前)。10勝5敗で九州場所を終え殊勲賞を受賞した

白鵬を寄り切りで下した、稀勢の里(手前)。10勝5敗で九州場所を終え殊勲賞を受賞した

 相撲界において不滅と言われた双葉山の69連勝。その数字が連日頭に浮かぶ場所に、遂にたどり着いた白鵬。揺るぎない自信で臨んだ九州場所に見えたが、そこには大きな魔物が潜んでいた。

「これが負けか」。桟敷席まで転がり落ちた白鵬が、笑みとも何ともいえぬ表情を浮かべながら思ったこと。大金星を挙げた稀勢の里を凝視することもなく、敗戦という現実を受け入れられず、焦点が定まらない。気持ちの整理がつかぬままに土俵に戻った白鵬は、一礼するとフーッと息を吐き出した。64連勝ならず。この瞬間、目に見えない怪物(双葉山)の呪縛から解き放たれた。

 初日の栃ノ心戦は完璧だった。右差しからの出し投げで相手の上手を切り、左上手を引く万全の形。寄ってからの上手投げには、白鵬が常々口にする相撲のポイント(心・流れ・下半身)全てに隙が無かった。誰もが「死角無し」と感じた矢先の2日目でのよもやの黒星。

挑戦者の当たりも心意気も受け止め跳ね返してこそ大横綱。

 相撲は、稀勢の里を褒めるしかない内容だった。白鵬の張り差しに押し込まれながらも、差し手を振りほどいて土俵際から逆襲。あごへの右の突きから反撃開始。ムキになった白鵬が張り手2発で墓穴を掘った。脇の空いたところにつけこみ、稀勢の里が左四つ右上手で、上手を与えない絶好の体勢。いつもなら勝負の遅い稀勢の里が、休むことなく巨体を活かした怒涛の寄り。白鵬は力ないすくい投げや内掛けを試みるが、下がりながらでは効果なし。稀勢の里は、腰の伸びきった白鵬を豪快に桟敷席まで吹っ飛ばした。あっぱれ、稀勢の里。一方、冷静さを失い、慌てて相撲が雑になった白鵬は、心・流れ・下半身全てにほころびが生じた。

 この番狂わせの最大の原因は、立合いの「張り差し」だ。脇を締めて下から上に突き上げる基本の立合いとは程遠い、安易な小手先の立合い。相手の突進をかわすような立合いは、地力や体力で勝る上位力士が用いてはならない。立合いに賭けて真っ向勝負してくる挑戦者の、当たりも心意気も受け止め跳ね返してこそ大横綱の相撲道である。

 優勝決定戦で豊ノ島を下し、5場所連続優勝を果たした白鵬。しかし連勝記録は2日目で突然の終幕を迎えた。物寂しさを感じたのは私だけだろうか。

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