ゴルフボールの転がる先BACK NUMBER
今季初優勝を飾った小田孔明。
移籍と新クラブが変えたもの。
text by
桂川洋一Yoichi Katsuragawa
photograph byHochi Shimbun/AFLO
posted2013/09/25 10:30
かつて「飛ばし屋」と呼ばれた男が壁にぶつかり、クラブを替えるという大きな決断をした。小田孔明のキャリアはこれからどんな曲線を描くのだろうか。
驚くほど感触の良い、あるドライバーとの出会い。
そんな思いを抱えていた昨年11月、カシオワールドオープンの予選ラウンドで、小田は本間ゴルフと契約する上平栄道と同組でプレーをした。上平は身長158センチ。ツアーメンバーで最も背が小さいプレーヤーとして知られている。一方、小田は176センチ、体重は85キロのぽっちゃり体型。背格好を見れば、はっきり言って大人と子供である。
それがティショットでドライバーを握ると、どうにも飛距離で分が悪い。オーバードライブされていくのがショックで仕方なかった。
「どうして……?」
そんな違和感を払拭するべく、翌週の練習中に上平に頼み込み、ドライバーを借りた。ビックリするくらいの感触の良さ。そして飛んだ。もちろん、その時の小田の調子や体調が、たまたま上平のクラブにマッチしたのかもしれない。しかし小田自身はその出会いに感謝した。
本間ゴルフはダンロップと比べれば規模が違う。しかし小田はオフになると、山形県酒田市にある同社の工場へ足を運んだ。
そこで小田が目にしたのは、職人たちがシャフトやヘッドを丹精込めて作る姿だった。「熱意を感じたし“ああ、これなら大丈夫だなあ”と思えた。ダンロップにも負けないスタッフがいる」。ちょうどツアーで活躍の見込める選手を探していた本間ゴルフの目論みと合致し、契約に至ったのだ。
メーカーのサポート態勢は完全な平等ではない。
各メーカーは契約選手を “チーム”の一員としてサポートする態勢を敷いている。なかでも成績の良い選手はチームの顔となり、契約金にも優劣が生じる。
だがその優劣は、単なるカネだけの問題ではない。
トーナメント会場にはツアーバンと呼ばれる、各メーカーのバスが待機しており、中では技術者が日々、ラウンド前後にクラブを調整している。「シャフトを1ミリ切ってくれ」「フェースを0.5度、開いてくれ」。プロの要求はアマチュアの理解が及ばないほどに細かい。もちろんメーカーは契約選手全員に手厚いサポートを施したいが、完全に平等に、とはいかないのがプロの世界だ。そのときどきの看板選手に力が傾倒するのは、仕方のないことだといえるのだ。