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<THE DAY 2010> 西岡剛 「歴史がつくられた日」 ~11月7日:日本シリーズ第7戦 中日vs.ロッテ~ 

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阿部珠樹

阿部珠樹Tamaki Abe

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photograph byTamon Matsuzono

posted2010/12/09 00:00

<THE DAY 2010> 西岡剛 「歴史がつくられた日」 ~11月7日:日本シリーズ第7戦 中日vs.ロッテ~<Number Web> photograph by Tamon Matsuzono

 自分の送球が一塁手のミットに収まるのを確かめると、西岡剛はまっすぐにマウンドに駆け寄った。日本シリーズ第7戦、最終回。最後の打球をさばいて投手に抱きついた西岡の周りを、あとから駆け寄る選手たちが取り囲む。喜びの中心で、キャプテンは人差し指を宙に突き上げ、「日本一獲得」を表現した。5年前の日本一の時には若さがはじけたが、2度目の日本一の歓喜には、どこか落ち着いた力強さが感じられた。

 喜びは大きかったが、決して満足できるシリーズではなかった。安打は出るが、マルチ安打は一度もない。打率1割台は1番打者としては合格とはいえない。もしチームが敗退していたら、真っ先に責任を追及されただろう。しかし、数字の上の不調を責めるチームメイト、首脳陣はひとりもいなかった。西岡が果たしたもうひとつの役割をよく知っていたからだ。先頭に立ってチームをまとめ、戦う熱気を作り出す。それが今年の西岡の役割だった。

史上初、リーグ3位からの日本一を決める打球は西岡のもとに。

 新人ながら日本シリーズ優秀選手賞を受賞した清田育宏は西岡のリーダーシップに励まされたひとりだ。

「チャンスになると、剛さんが前に出て声を出して盛り上げる。それでチームが乗っていく。苦しいときでも大丈夫と周りを励ます。ぼくらはずいぶん勇気づけられました」

 エースの成瀬善久は、日本シリーズの前、クライマックスシリーズのときに西岡から言われたことが頭から離れなかった。

「おまえ、ここまできて負けたらシャレにならんぞっていうんです」

 それは「おまえならやれる」という西岡流の励ましだった。それに応えるように、成瀬はクライマックスシリーズ、日本シリーズで大活躍した。

 去年は監督人事を巡ってファンからきびしい批判を受けたマリーンズ。そのとき、西岡はあえてファンの前に立って、罵声を浴びながら支持を訴えた。それだけに、2010年シーズンにかける気持ちは強かった。キャプテンに指名され、染めていた髪を黒く戻し、全試合に出場して首位打者を獲った。イチロー以来リーグ2人目の200安打を記録したリーダーのもとに、史上初リーグ3位から日本一を決める打球が飛んだのは偶然ではないだろう。西村徳文監督の胴上げがはじまる。そのとき、西岡の左胸にあるキャプテンを示すCのマークはひときわ輝いて見えた。

西岡剛(Tsuyoshi Nishioka)

1984年7月27日生まれ、大阪府出身。大阪桐蔭卒業後、ロッテに入団。'05年、41盗塁でタイトルを獲得、日本一にも貢献した。今年は206安打を放ち首位打者を獲得。オフにMLB移籍を宣言した。182cm、80kg

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