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最終戦でベッテルに屈したアロンソ。
レッドブルが仕掛けた恐るべき罠。 

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尾張正博

尾張正博Masahiro Owari

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photograph byHiroshi Kaneko

posted2010/12/02 10:30

最終戦でベッテルに屈したアロンソ。レッドブルが仕掛けた恐るべき罠。<Number Web> photograph by Hiroshi Kaneko

シーズン中はベッテルに対してのわだかまりもあったウェバー。優勝争いの一角に食い込めたことで最終的に満足できたのかどうか……

 最終戦アブダビGP、レース直後のパドック。

 大逆転で初の王座に輝いたレッドブルのガレージ裏は、シャンパンの匂いがする「ベッテル 2010年ワールドチャンピオン」とプリントされたTシャツを着たチームスタッフたちでゴッタ返していた。

 その喧噪から数十メートル離れた、アブダビの美しいマリーナを見わたす瀟洒なテラスで、チームオーナーでありオーストリアのエナジードリンクメーカーのトップでもあるデートリッヒ・マテシッツは親しい仲間たちと祝杯を挙げていた。その中にアレクサンダー・ブルツというオーストリア出身の元F1ドライバーがいた。

 私はこの日のレース展開で、どうしても気になっていることがあった。そこで、マテシッツの左隣でシャンパングラスを手にしていたブルツに尋ねてみた。

「なぜ、ウェバーは11周目にピットインしたのでしょう?」

 マテシッツの隣で、ブルツは静かにこう囁いた。

「トラップ(罠)をかけたんだよ」

ただ勝つのではなく、戦略的に走る必要があった3人。

 史上初の四つ巴による最終戦。

 事実上タイトル獲得の可能性が残されていたのは、その時点でドライバーズ・ポイントのランキングトップ3であるフェルナンド・アロンソ(フェラーリ/246点)、マーク・ウェバー(レッドブル/238点)、セバスチャン・ベッテル(レッドブル/231点)の3人だった。

 レースのスタートポジションを決める土曜日の予選で、ベッテルはポールポジションを獲得。アロンソが3番手、ウェバーは5番手となった(マクラーレンのハミルトンは2位、バトンが4位だった)。ベッテルがポール・トゥ・ウィン(+25点で256点)を飾っても、アロンソは4位以上(4位の+12点で258点)でフィニッシュさえすればタイトルを獲得できるという有利な立場にいた。

 しかし、アロンソとフェラーリ陣営には1つだけ不安があった。

 それはランキングにして8点差、アロンソに次いで2位につけていたウェバーの存在だ。

ウェバーさえ前を走らせなければ勝てる、と考えたアロンソ。

 もし、予選5番手からスタートしたウェバーがアロンソの前に出て、しかもトップを走るベッテルの真後ろまで順位を上げた場合、レースの最終盤においてチームメート同士で合法的な順位の入れ替え(アロンソが4位以上を走っていたら優先的にウェバーを優勝させる)が行われる可能性があり、タイトル争いが非常にやっかいなことになるからだ(ウェバーがこのレースで優勝すると263点となるので、アロンソは2位になって264点としないと年間タイトルが取れない)。

 レース前の段階で、アロンソとフェラーリにとってマークしなければならない相手を、ポールポジションからスタートするベッテルではなく、ランク2位のウェバーにすることは、ごく自然なことだった。

【次ページ】 ウェバーは予選でアロンソから遅れた時点で相当不利に。

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