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<自転車で山登り> ヒルクライムin立山 「ペダルを踏んで苦しみのその先へ」 

text by

柳橋閑

柳橋閑Kan Yanagibashi

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photograph byMami Yamada

posted2013/09/17 06:00

<自転車で山登り> ヒルクライムin立山 「ペダルを踏んで苦しみのその先へ」<Number Web> photograph by Mami Yamada
ひたすら、ひたすら自転車を漕いで坂道を上り、山の頂上を目指す――。
そんなヒルクライムという“山の楽しみ方”が今、
急激に人気を集め始めている。初開催ながら圧倒的スケール感で注目された
「mont・bell立山アルペンヒルクライム」に“坂バカ”ライターと
自転車初心者の編集者が挑戦。見えたのは苦しみ? それとも……。

好評発売中の雑誌Number Do「日本百名山を再発見~あの山はもっと遊べる!~」より、
標高差1473mのハードな挑戦記を特別に公開します!

 あのコーナーを曲がればきっと平坦路が待っているはずだ─―そう信じて必死にペダルを回すが、淡い期待はすぐに打ち砕かれる。視界の先にはひたすら急勾配が続いている。

 脚は血管に鉛を流し込まれたんじゃないかと思うほど重い。肺はふいごのように悲鳴をあげ、心臓は激しい鼓動を刻む。座って漕ぐのに耐えられなくなり、立ってダンシングする。引き足を使い、手の位置を変え、肩を揺すり、腕を引き寄せ、身体のどこかにまだ使っていない筋肉はなかったかと、必死に探してまわる。あらゆる力を総動員しなければ、この坂は登れない―─。

 その朝、僕は立山の美女平天空ロードを自転車で走っていた。コースの中盤、七曲と名付けられたつづら折りの激坂は永遠に続くように思われた。

山道、急坂……自転車好きに意外と多い“坂バカ”。

「立山黒部アルペンルートを走れるというヒルクライムの大会が今年初めて開かれるそうなんですけど、出てみませんか?」

 春先、編集部きっての“挑戦野郎”わくいくんからの誘いに、「出る出る!」と二つ返事で答えたのが始まりだった。

 自転車好きにはいろいろなタイプがいるが、意外と多いのが“坂バカ”である。山道はもちろん、街中でも急坂を探しては登りまくることに無上の悦びを見出すのだ。そんな坂バカ友達に丹沢のヤビツ峠などに連れて行かれるうちに、僕自身すっかりハマってしまい、ここ数年はレースにも出場するようになった。

標高差1473m、平均勾配6.6%の過酷な舞台へ能天気にエントリー。

 かの立山黒部アルペンルートを自転車で走れると聞いたら、坂バカとして出ないわけにはいかない。コースは美女平から、弥陀ヶ原の湿地、雪壁で有名な大谷を抜け室堂に至る22.3km。標高差は1473m、平均勾配6.6%というコースプロファイルは国内最高レベルだ。これはやりがいがあるぞ、と奮い立っていると、わくいくんが言った。

雪の大谷の間を行くヒルクライマー。梅雨時期にもかかわらず、大会当日はキレイな青空が広がった。左端はバンクーバー五輪で銀メダルを獲得したスピードスケートの田畑真紀選手。 

「僕も出ようと思うんですけど」

「え!? ロードバイク持ってたっけ?」

「いま注文しているところです。それに大学時代はママチャリで京都の山の中を走り回っていたから、けっこう自信あるんですよ」

 陸上部出身で体力も根性もあるのは知っている。しかし、ヒルクライムは登りしかない特殊な競技だ。僕もだいぶ気軽にエクストリームな競技にエントリーしてしまう人間だが、この男はそれに輪を掛けて脳天気なようだ。

 練習もせずに大丈夫かなあ? 不安を抱えたまま、でこぼこコンビは富山へと旅立った。

【次ページ】 ホビーレーサーでも下見はしているのに……。

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