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<セ・パの最多安打男が語る> 西岡剛×マートン 「200本超えで見えた新世界」 

text by

石田雄太

石田雄太Yuta Ishida

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photograph byYasuyuki Kurose

posted2010/11/17 06:00

<セ・パの最多安打男が語る> 西岡剛×マートン 「200本超えで見えた新世界」<Number Web> photograph by Yasuyuki Kurose

マートンとイチローが対戦した唯一の公式戦。

 今から3年前の、'07年6月12日。

 マートンはこの日、6番ライトで先発しながら3打数ノーヒットで、終盤のチャンスに代打を送られた。そして試合後、メジャーに定着してから初めてのマイナー落ちを言い渡される。屈辱の一日――実は、この日の試合はマリナーズ戦。マートンとイチローが同じグラウンドに立った、唯一の公式戦だった。

「いや、覚えてないなぁ。スプリングトレーニングでマリナーズと対戦した時のイチローなら記憶にあるけど、シーズン中のことは思い出せない。完全に記憶の外だね。普通は誰とどこで対戦したのかはよく覚えているんだけど……ちょうど自分が苦しかった時期と重なっているから、当時の記憶は意識して削除してしまったんだろう。マイナーには何度も落とされては這い上がってきたから、いちいち覚えてなんかいられないよ(苦笑)」

 メジャーとマイナーを行ったり来たりの選手が、日本での1年目にイチローの記録を超える214本ものヒットを放った。イチローはマートンについて訊かれたとき、『なんとなく名前を聞いたぐらいの選手が日本に行って1年目で210を打つというのは、ちょっと衝撃ですよね』と語り、さらにこう続けた。

「アメリカをナメちゃいけないなと思わされます」(イチロー)

『それでも(試合数が違っても)難しい数字ですから、凄いと思います。ビックリしますよね。WBCで日本が勝ったり、メジャーにも(日本人選手が)何人か来るようになって、傍から見ると急激に距離が縮まった印象なのかもしれませんけど、この事実には、アメリカをナメちゃいけないなと思わされます』

 このイチローのコメントについて、マートンはこんなふうに話した。

「選手にとって最も重要なことは、試合に出場する機会を手にするということ。自分にとって、その機会を与えてくれたのは日本の野球界だった。イチローは、僕がメジャーでの実績がないまま日本に来たって言うけど、でも、日本に来る前の僕にはチャンスが与えられていなかったんだから、メジャーで数字を残す力があったのか、なかったのか、誰にもわからない。僕は日本の野球はハイレベルだと思っているし、アメリカと日本の差はアメリカ人が思っている以上に縮まっていると思う。それぞれの野球に違いがあることは事実だけど、どちらかが一方的に上だという話ではない。ただ、フクドメ(福留孝介)が日本から来て、入れ替わりでカブスを去った自分が今、こうして日本でプレーしているんだから、運命って不思議なものだと思うよね」

【次ページ】 二人に共通する「詰まることを恐れない」という価値観。

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西岡剛
マット・マートン

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