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アメリカで女子MMAが本格始動。
日本人は“世界”とどこまで闘えるか。 

text by

橋本宗洋

橋本宗洋Norihiro Hashimoto

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photograph byNorihiro Hashimoto

posted2013/07/20 08:01

アメリカで女子MMAが本格始動。日本人は“世界”とどこまで闘えるか。<Number Web> photograph by Norihiro Hashimoto

下になったベック・ハイアットを攻める魅津希。バックボーンは空手だが、柔術を習得中でグラウンドの技術も進化を続けている。

一方的なものになった浜崎とカデーラの闘い。

 ともに9戦全勝である浜崎とガデーラの闘いは、一方的なものになった。序盤からガデーラがテイクダウンに成功し、抑え込んでパンチとヒジ、さらに肩固めも狙う。浜崎は攻撃らしい攻撃をさせてもらえないまま、3ラウンドにパウンド連打でレフェリーストップによるTKO負けを喫した。

 実は、浜崎には大きなビハインドがあった。ヒザに負傷を抱える彼女はテーピングが欠かせない。カンザスシティではそれが認められるということで昨年7月に初参戦している。だがカンザスシティはカンザス州とミズーリ州をまたいでおり、今回は大会の成長にともない、より大きな都市であるミズーリ側で開催されたのだ。他の大多数の州と同様、ミズーリ州ではテーピングが禁止されている。

 交渉の結果サポーターの着用は認められたが、負傷箇所を気にしながらの闘いになってしまったことは否めない。また、1ラウンド終了間際に反則であるグラウンドでのヒザ蹴りを顔面に食らってしまう不運もあった。

 ただ、ケガや反則のダメージを差し引いても、浜崎とガデーラには大きな差があるように見えた。大会翌日、浜崎は試合をこう振り返っている。

「何もできなかった。とにかくフィジカルがケタ違いで……」

 日本でなら決まっていたはずの、完璧なタイミングで放ったタックルが切られてしまう。大内刈りもいとも簡単に返された。

 もともと体重が軽く、あまり減量をしない浜崎に対し、ガデーラは上の階級から落としてきた選手。計量後のガデーラが体重を20ポンド(約9kg)戻したことを知ると、浜崎は「私1.5kgですよ……」と唖然としていた。柔術黒帯を持つブラジリアンは、日本が誇るチャンピオンの基準を超える相手だった。

初海外でも存在感を発揮した“天才少女”魅津希。

 一方、今回がインヴィクタFC初登場となる魅津希は、タイトルマッチの経験もある人気選手ベック・ハイアットに判定3-0で勝利した。18歳、春に高校を卒業したばかりの“天才少女”は、これが初めての海外。「乱気流が怖くて、飛行機の中ではずっとうずくまってました」というが、ケージの中ではまったく臆することがなかった。

 組んだ状態から繰り出す、スナップの効いた空手式のローキックでダメージを与え、腕十字にもトライ。2ラウンドはテイクダウンからパウンドとヒジを容赦なく浴びせる。最終3ラウンドにはやや手数が減ったものの、巧みなディフェンスで決定打を許さない。見事な闘いぶりだったというほかない。

 大会後、中継の実況アナウンサーは真っ先に魅津希のもとへ駆け寄った。

「素晴らしい! この年代であそこまでボクシング・テクニックのある選手は初めて見たよ。放送でもそう言ったからね」

 その後も魅津希は、観客はもちろん関係者からも何度となく写真撮影を求められていた。その反響の大きさに、誰よりも彼女自身が驚いたはずだ。

 敗れた浜崎にも勝った魅津希にも共通しているのは“世界”を体感したということだ。想像を超える強敵。予期せぬ賞賛。そのどちらも、日本では出会えなかったものではないか。

“ゴールドラッシュ”を迎えつつあるアメリカ女子MMA。そこで闘い、勝つことは、日本人女子ファイターにとっても「明確な目標」になることだろう。

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