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「熊缶」を携えて峠を歩き、
アメリカ本土最高峰で見た朝日。 

text by

井手裕介

井手裕介Yusuke Ide

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photograph byYusuke Ide

posted2013/07/21 08:01

「熊缶」を携えて峠を歩き、アメリカ本土最高峰で見た朝日。<Number Web> photograph by Yusuke Ide

アメリカ本土最高峰のホイットニー山頂でワイルドな記念写真をとる井手くん。日焼けとヒゲでたくましくなってきた。

Sweat Jesusとの再会、もう一度試みるヒッチハイク。

 カフェで原稿を書きつつバスの時間まで時間を潰していると、僕と同じ匂い(臭いか)のするバックパッカーと出会った。Sweat Jesus(汗臭いキリスト)だ。Kennedy meadows以来の再会になる。

 彼に事情を話すと、辛抱が足りないとたしなめられ、彼が買い出しを終えたら、一緒にもう一度ヒッチハイクを試みることになった。今度は目的地を書いたボードを両手に抱えて。彼のアドバイスで、町の出来るだけ外れまで歩いて試みた。

 

 1時間ほど経ち、クラフトショップを営んでいるおばちゃんが見かねて店から出てきた。ミネラルウォーターを僕たちに手渡す。

「全く、よくやるわね。私ゃあと1時間くらいしたら店を閉めるよ。その後で隣町のBig Pineに住んでいる両親のところに食事を届けに行くんだけれど、そこまで乗って行くかい。そこはまさにハイウェイ上の砂漠といった所でなーんにもないけれど、通る車は確実にIndependenceに行くはずよ」

 僕とSweat Jesusは顔を見合わせる。そこが中途半端な場所であることは明らかだった。とにかくあと1時間、粘ってみよう。

結局クラフトショップのおばちゃんとBig Pineへ。

 結局、1時間経っても車は1台も止まらず、おばちゃんの車でBig Pineへ向かうことになった。

 車中、彼女は自分が15歳の時、初めてこの町に越してきた時のことを懐かしそうに語ってくれた。それまでサンタモニカに住んでいた彼女は、毎日マリブビーチでサーフィン三昧であったという。

「当時は『Bishopってどこよ、海は? 両側に山しかないじゃない』って感じだったのよ。通っているハイウェイは395号線1本だけだし。まさに『参ったわねー』だったわ」

 彼女の目は、はるか遠く延々と続くハイウェイを見つめる。

 僕にとっては美しい景観の、このなにもない一本道は、彼女の目にどう映っているのだろうか。

【次ページ】 自分の恵まれた立場に胸が少し痛む。

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