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五輪ボランティアスタッフに学ぶ、
従業員満足度と顧客満足度の連係。 

text by

葛山智子

葛山智子Tomoko Katsurayama

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photograph byNaoya Sanuki

posted2013/07/23 10:30

五輪ボランティアスタッフに学ぶ、従業員満足度と顧客満足度の連係。<Number Web> photograph by Naoya Sanuki

ロンドンオリンピックの男子マラソンにて、沿道の整理係として働くボランティアスタッフの女性。

数万人のボランティアがシステマティックに動く驚異!

 晴れてボランティアとして参加できることが決まり現地入りすると、IDパスやユニフォーム、ガイドブックパッケージなどが渡される。そしてここからがすごい。

 数万人のボランティアが、短期間でシステマティックにトレーニングを受けていくのである。役割によってトレーニング内容の差こそあるが、基本的にはオリンピックの歴史やスピリッツなどの一般知識や担当業務別のトレーニングを受ける。業務内容によっては実地トレーニングを受ける場合もある。これほどの人数規模で丁寧なトレーニング受講体制を整えていることは、驚嘆に値する。

 このトレーニングを受けると、ボランティアたちの気分はさらに高まり、ボランティア活動における自らの使命を感じ始める人が多い。なぜならば、トレーニングでは「ボランティアなしにはオリンピックは始まらない」という主旨の感謝が終始伝えられ、ボランティアスタッフは組織委員会やトレーニングスタッフからの「レコグニション(認知)」を絶えず得ることになるからである。知識やスキル、マナーなどについての理解を深めることも重要だが、なによりもこのトレーニングを通じて「誇り」を感じ取るのである。

五輪ボランティアの報酬は、選手、スタッフ、観客からの「感謝」。

 ボランティアには、渡航費も宿泊代ももちろん金銭的報酬も渡されない。市内からオリンピック会場までの交通費(無料パス)と食事の補助、そしてユニフォームのみが渡されるが、ボランティアにとってはこれだけで十分なのである。なぜなら、そこに集まるボランティアが求めているのは金銭的報酬ではなく、自らの「心理的報酬」と周囲から与えられる「評価」がその報酬だからである。オリンピックという舞台に関われる幸せ。選手・スタッフ・観客をサポートすることに意義を見出し、そして感謝されること、オリンピックの一部であることを心から喜ぶ。それがボランティアにとっては、金銭に代わる、絶大なる「報酬」なのである。

 読者も見たことがあるかもしれないが、オリンピック会場の電光掲示板にはボランティアをたたえる言葉が何度も表示される。開会式・閉会式でのスピーチでもボランティアへの感謝が繰り返し伝えられる。ボランティア活動の中で、よいサポートをすればするほど多くの観客から感謝され、会場や食堂なので出会う多くのスタッフから、常に感謝の意が伝えられる。

 この感謝の言葉が伝えられる時こそ――そのボランティアの担当がいかに体力勝負の職務であったとしても――それだけで一気に疲れも吹き飛ぶ瞬間なのである。つまり、自分が貢献することに対して直接反応を受けられると同時に、周囲からレコグニションされる機会が十分すぎるほど用意されているのが、「オリンピック」という巨大なスポーツの祭典なのである。

【次ページ】 東京ディズニーリゾートの360度評価は五輪に通じる。

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