濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER

北岡の咆哮と弘中の号泣。
“リスク”が名勝負を作った。 

text by

橋本宗洋

橋本宗洋Norihiro Hashimoto

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photograph byHisao Yamaguchi

posted2010/10/12 10:30

北岡の咆哮と弘中の号泣。“リスク”が名勝負を作った。<Number Web> photograph by Hisao Yamaguchi

勝利し雄叫びをあげる北岡悟(手前)に対し、弘中邦佳は涙を流すことを憚らなかった

劇的なフィニッシュ、そして激しいコントラスト。

 その瞬間は、2ラウンド終盤に訪れた。それまでテイクダウンを遮られてきた北岡が、タックルから仰向けになってグラウンドへ引き込む。あえて上のポジションを譲ることで、試合を動かしたのだ。弘中は素早い動きでマウントポジションを取る。だがその時、北岡は弘中の足を取った。必殺の足関節技から脱出しようと身をよじる弘中の首に、北岡の腕が絡みつく。足から首へ、サブミッションのコンビネーションだ。この試合で初めて、攻守が明確になった。そしてそこで、試合は終わった。弘中がタップしたのである。まさに一瞬だった。攻める北岡と逃げる弘中という構図ができたところで、試合の行方も決まったのだ。

 ガッツポーズを繰り返し、咆哮する北岡。敗れた弘中はコーナーで泣き崩れた。かけていたものが大きいからこその、激しいコントラストだ。リスクを背負ったものにしか得られない歓喜と、リスクを背負ったゆえの絶望がそこにはあった。攻防のレベルが高かったこと、フィニッシュが劇的だったことだけではない。選手たちがリスクを背負っていたからこそ、この試合は名勝負だった。

パンクラス退団の北岡は大晦日の『Dynamite!!』に出場?

 試合後、北岡はパンクラス退団を宣言。大晦日に試合がしたい、すなわちパンクラスとは交流のない『Dynamite!!』に出場したいと語った。退団は試合前から決めていたことだという。しかし同時に、こうも語っている。「もし負けたら、選手をやめてたでしょうね。そのくらいの覚悟で臨みました。それは相手も同じだったと思います」。

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北岡悟

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