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今なお多くのファンを魅了する
“MMAの父”、ブルース・リー。 

text by

橋本宗洋

橋本宗洋Norihiro Hashimoto

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photograph by(c)MMXII NETWORK FILMS TWO INC.

posted2013/07/09 10:30

今なお多くのファンを魅了する“MMAの父”、ブルース・リー。<Number Web> photograph by (c)MMXII NETWORK FILMS TWO INC.

映画『アイアム ブルース・リー』は新宿武蔵野館にて公開中。公式サイトは www.brucelee2013.com 。

中国拳法に飽き足らず総合格闘技・ジークンドーを創始。

 少年時代、伝説の達人イップ・マンから詠春拳を学んだブルース・リー。だが彼は中国拳法に飽きたらず、さまざまな格闘技のエッセンスを取り入れたジークンドーを創始している。ボクシングからは“倒すパンチ”とフットワークを学び、防御と攻撃が一体化した動きはフェンシングを研究した成果だという。またジャブの有効性にも着目し、モハメド・アリの試合映像を何度も見ていたという証言もある。

 さらに投げ技、寝技も取り込んだのがジークンドーの“元祖MMA”たる所以だ。ジークンドーの師範で『死亡遊戯』でブルース・リーと共演、彼にヌンチャクを教えたことでも知られるダニー・イノサントは「もしブルースが生きていたら、ブラジリアン柔術も研究していたはずだよ」と言う。

打・投・極のファイトスタイルを'70年代に実践。

『燃えよドラゴン』の冒頭で行なわれる少林寺での模範試合。そこでリーが着けているグローブはナックルと手の甲だけをカバーするもので、相手を掴めるようになっている。そう、これはオープンフィンガーグローブなのだ。試合を決めるのはグラウンドでのストレート・アームバー(腕ひしぎの一種)。打撃から組み付いて投げ、そして寝技で仕留めるという闘いを、彼は'70年代に実践していた。

 UFCファイターのステファン・ボナーは、『ドラゴンへの道』のクライマックス、チャック・ノリスとの闘いに衝撃を受けたと語っている。

「フィニッシュがギロチンチョークなんだよ。時代の先を行ってたね」

 リーを“MMAの父”とする説にはもちろん異論もある。UFCをスタートさせたのはグレイシー一族だし、リー以前にさまざまな流派をミックスさせた格闘技を作ったと主張する者もいる。ただ、影響力という面も含めれば、やはりブルース・リーは“父”に値する存在だと言える。彼に憧れて格闘技を始めた数多くの選手たちがこの世界を盛り上げ、発展させてきたのだ。

『アイアム ブルース・リー』には、ファイターたちがリーのアクションや名台詞をモノマネする場面も出てくる。少し照れながらも、みな一様に嬉しそうな顔をしているのが印象的だ。その目は12歳の少年のようでもある。

選手たちの心の奥底にある少年時代の憧れ。

 選手たちがジムで練習し、ケージで闘う時、心の奥底には少年時代の憧れ――ブルース・リーのように強く、かっこよくなりたい――があるのだろう。彼らは映画のタイトルどおり「俺がブルース・リー」になってパンチやキックを繰り出している。

 世界最高峰のMMAファイターたちも、一度はおもちゃの(もしかしたら自作の)ヌンチャクを振り回して鏡の前でポーズを決めたことがあるのだ。僕やあなたのように。

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