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好機に仕掛けないのも“積極采配”!?
巨人・原監督に見る監督のロジック。 

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鷲田康

鷲田康Yasushi Washida

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photograph byNaoya Sanuki

posted2010/09/19 08:00

好機に仕掛けないのも“積極采配”!?巨人・原監督に見る監督のロジック。<Number Web> photograph by Naoya Sanuki

9月に入り、足踏みする巨人と阪神を尻目に中日が11勝1敗1分け(9月15日現在)と好調を維持。リーグ制覇に向け、上位チームの監督はどんな采配を振るうのか

大型連敗の発端は抑え投手陣の乱調にあった。

 その心は何なのか――。

 伏線はこの広島戦の前の戦いにあった。

 8月27日の広島遠征から始まりヤクルトを帯同した北陸、敵地名古屋に乗り込んだ中日戦という9泊10日の遠征で、巨人は1勝6敗1分けと散々な成績に終わった。

「最初の広島戦を落としたショックを最後まで引きずってしまった」

 原監督はあるスタッフにこう漏らしていたという。最初の広島戦とはクルーンが9回に追いつかれ、延長11回に古城茂幸内野手の2ランで勝ち越しながら、その裏に野間口貴彦投手がサヨナラ3ランを浴びて黒星を喫した試合だった。

 その後は投打の歯車がまったくかみ合わなくなり、投手陣が踏ん張れば打線が機能せず、打線が何とか点を挙げると、今度はリリーフ陣がつかまって同点、逆転を許してしまう。特に8試合で終盤の逆転負けが1試合、勝っていた試合を追いつかれた引き分けが1つ。勝ちパターンの試合でも、終盤になるとチームが浮足立ってしまっていた。

 まさに「最初の広島戦を引きずった」ままに、チームのリズムはガタガタになりかけていたわけだ。

 そういうチーム状態の中で迎えたのが、12日の広島戦だったのだ。

乱れたリズムを取り戻すために必要だった継投策での勝利。

「2点を守り切って勝つことしか考えなかった」

 会見から引き上げる通路で「積極策」の意味を問うたときに、原監督はひとことだけこう語った。

 6回の山口を打席に送った場面。リリーフ陣の状態を考えたら、目先の勝利のためには1点でも多い点差が欲しい状況だった。だが、失いかけたチームのリズムを取り戻すためには、あえて僅差でも継投で逃げ切ることが必要だった。そうすることでベンチと投手、野手の三位一体の信頼関係は取り戻され、チームという生き物は再び息を吹き返す。

 この試合で積極的に目指したものは、単なる目先の白星ではない。勝つことは当たり前で、その勝ち方にこそテーマがあったということなのだ。

 そのために、あえてあの場面で山口に代打を送らなかった。それこそ原監督の「積極采配」だったわけだ。

 そこから再び巨人は息を吹き返した。結果をみれば原監督の「積極采配」は、とりあえずは当たったことになる。

 残り15試合を切った最後のデッドヒート。勝負の行方は3人の監督の采配にあると言われている。その中で3人の監督たちがいかなる「積極采配」を見せるのか。これからは残りの1試合、1試合から目が離せない。

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原辰徳
読売ジャイアンツ

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