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「出会い」を力に変える男・吉田麻也。
成長続けたプレミア1年目を振り返る。 

text by

西川結城

西川結城Yuki Nishikawa

PROFILE

photograph byTomoki Momozono

posted2013/06/14 10:30

「出会い」を力に変える男・吉田麻也。成長続けたプレミア1年目を振り返る。<Number Web> photograph by Tomoki Momozono

吉田は、リーグ戦最終盤の3試合は欠場したものの、31試合連続フル出場を果たすなど、監督の交代にも全く影響されずDFの中心としてプレミア残留に貢献した。

「試合には出られないけど、練習から成長できている」

「僕は、彼(フォンテ)がどんな話をするのかなと思っていたんです。前の監督が悪いわけではないですけど、アドキンスさんはいわゆるイギリススタイルのサッカーだった。でもいまは戦略があって、戦い方も柔軟で、どうやってチームを毎試合マネジメントしていくかというところがしっかりとある。練習の中でも明確な狙いや意図がある。漠然と4対4とか紅白戦とかをやることはない。監督も『相手のチームがこういうスタイルだから、俺たちはこう戦う』とか、『怖がらずにパスをつないでいくぞ』とか、明確に言うんです。そして、そういうチームになってから、ジョゼ(フォンテ)はメンバーから外れた。

 ジョゼが言っていたことは印象的でした。『自分はアドキンスさんの時の方が試合には出られていたけど、あまり個人としては得られるものは多くはなかった。でもいまは試合には出られないけど、練習から成長できている実感がある』と言うんですよ。それをライバルの一人でもある僕に話してきた。これって、なかなかできないことですよね。『だからいまは試合に出られていないけど、監督のサッカーの下ですごく充実しているんだ』と。ケガするまではずっとキャプテンだった選手だから、余計に僕はびっくりしたというか、彼の考え方が新鮮でもありました」

吉田の「人徳」を物語る、スペイン人コーチとの意外な再会。

 言い換えれば、試合に出ていない選手へのアプローチやマネジメントも、ポチェッティーノ監督はできているのかもしれない。またライバルに対して、サッカー選手としてのいまの充実感を素直に口にしたフォンテの、懐の大きさも表している。それはそのまま、彼にそういう心情とモチベーションを抱かせた、青年指揮官の評価にもつながっている。

 サウサンプトンはこのアルゼンチン人監督との出会いによって、これまで以上に前向きなスタンスで歩むことができるようになっていった。そして、そのチームの軸として、指揮官からの信頼をしっかりと受けた吉田が存在している。紛れもなく、意義のある人との出会いがもたらした、大きな力である。

 最後にもうひとつ、吉田の人徳を物語るエピソードを。

 チームには、ポチェッティーノ監督とともにやってきたスペイン人のヘスス・ペレスコーチがいる。彼はかつてサウジアラビアの強豪クラブ、アルイテハドでもコーチを務めた経験があり、'09年のAFCアジアチャンピオンズリーグ(ACL)の準決勝で、吉田が在籍していた名古屋と対戦しているのだ。

「この前、コーチが来て『マヤ、あの試合に出ていただろう?』と言ってきたんです。もちろん僕はアルイテハドのコーチが、彼だったなんて気づいていなかったです。当時の試合の映像を見返したみたいで、『マヤを見つけた』と話してきたんですよ。彼は日本にも何回か行ったことがあるみたいで、細かいところまで意識する日本人の感覚がすごく好きなんだといつも言っている。昔の僕を知っている人がいることも、僕にとってはラッキーだったなと。自分で言うのも変ですけど、これも人生において大切な『人徳』なんですかね(笑)」

次回の「サバイブ」は、Number830号(6月13日発売)に掲載しています。
ウェブ版オリジナル連載「Survive PLUS ~頂点への道~」の第4回も合わせて、楽しみにお待ちください。
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