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松山英樹を感嘆させた“緩急の差”。
中嶋常幸が次代に伝える勝負師の魂。 

text by

桂川洋一

桂川洋一Yoichi Katsuragawa

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photograph byNIKKAN SPORTS/AFLO

posted2013/06/06 10:31

松山英樹を感嘆させた“緩急の差”。中嶋常幸が次代に伝える勝負師の魂。<Number Web> photograph by NIKKAN SPORTS/AFLO

後続に2打差をつけた9アンダーで、今季2勝目を挙げた松山(写真左)。ウィニングパットを沈めた直後には「(中嶋に)“外したらぶっとばすつもりだった”と言われたので入ってよかったなと思いました(笑)」と喜びを語った。

「オレを誰だと思ってるんだ!」

 会見場の椅子にドカッと腰を下ろすなり、中嶋常幸はそう言った。ダイヤモンドカップゴルフの3日目を首位タイで終えた直後の一場面である。笑い声が響く中、ふんぞり返るような仕草が、嫌味な態度と受け取られるはずはない。58歳が迎える翌最終日には、レギュラーツアー史上最年長優勝記録の更新がかかっていた。

 ともに時代を築いた尾崎将司が、つるやオープンの第1ラウンドで62を叩き出して話題を独占したのはわずか1カ月半前。中嶋も負けてはいられない。シニア世代にしてレギュラーツアーで優勝争いの主役の一人となったことに「これは初日のインタビューじゃないぞ。3日目だからね。こんなところで闘志をむき出しにするなって?」とジョークを飛ばす表情には、プライドと自信がにじむ。「厳しい戦いだから、人にはかまっていられない。自分と、コースとの戦いでしかないだろうね」と戦意を匂わせた。

 そしてその戦いの注目度を一層大きくしたのが、同じく首位で並んだ松山英樹の存在である。偉業達成に立ちはだかるのは今やツアーで最も勢いがある、いや、勢いだけとは思えぬ地力を示す21歳。中嶋は松山の父と同じ年とあって、まさに親子ほど年の離れた2人の直接対決に周囲は色めいた。

中嶋が決勝ラウンドに進出したのは本人すらも想定外!?

 だがその松山の話題となるとどうだ。中嶋の口調の勢いは急に衰えてしまった。

「はあ……なんであんな若いのと一緒に回んなきゃいけないの……いい加減にしてくれよな」「体力は大丈夫。でも精神力がね……」「おじさん、挫けやすいから」と、珍しくありったけの弱音を並べて、翌日のコースに出ていくのであった。

 そもそも中嶋がこの週末を満を持して迎えたかは疑わしい。ここ2年、10キロを超える減量に成功し、今季は体調が優れている。しかし「正直言って、プロは決勝ラウンドに進むと思っていなかったみたいなんです」。そう話すのは、今大会で臨時にキャディを務めた鈴木美保である。

 茨城県内のゴルフ場の研修生である彼女が今回、キャディのオファーを受けたのは大会開幕のわずか4日前。しかも「プロはお着替えを持っていらっしゃらなくて……。ウェアが練習ラウンド、プロアマ用と、予選の2日。全部で4日分しかなかったんです」。予選通過は本人も想定外だったのかもしれない。結局、決勝の分は、鈴木が洗濯をして凌いだ。

【次ページ】 緊張の糸が張り詰める優勝争いにもベテランは余裕綽々。

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