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高卒プロ1年目投手を酷使し過ぎ!?
藤浪を見て考えた大器の育て方。  

text by

氏原英明

氏原英明Hideaki Ujihara

PROFILE

photograph byNanae Suzuki

posted2013/06/03 12:20

高卒プロ1年目投手を酷使し過ぎ!?藤浪を見て考えた大器の育て方。 <Number Web> photograph by Nanae Suzuki

6月2日のソフトバンク戦は藤浪に勝ち星こそつかなかったが、最終的に逆転勝利し、首位に躍り出た阪神。試合後、藤浪は「次は勝てるピッチングをしたいです」と語った。

恩師が語る、藤浪の抱える大きな課題とは?

「ピッチング自体は全然よくないと思います」

 そう言い切ったのは、藤浪の恩師・大阪桐蔭の西谷浩一監督。5月26日の日本ハム戦の後に聞いた話だが、西谷監督は教え子の活躍を誇らしげに感じていると喜ぶ一方で、こうも話していた。

「3勝目の時は、少しよくなったかなと思いましたけど、この前の日ハム戦は今季で一番悪かったですね。今の藤浪はチームに勝たせてもらっているというのが現状じゃないでしょうか。野手のみなさんがよく打ってくれて、藤井(彰人)さんが上手くリードしてくれて、阪神という球団に勝たせてもらっている。藤浪は一生懸命投げていると思いますけど、ボール自体は全然です」

 ひとつ興味深い数字がある。それは藤浪の左打者に対する成績だ。

 右打者に対しての被打率が.149、左打者が.228(6月2日のソフトバンク戦までの成績)。

 日本ハム戦では同級生の大谷翔平から2安打を喰らったし、この日のソフトバンク戦でも、8安打中7本が左打者によるものだったのである。

 実は、これはもともと藤浪が持っていた高校時代からの課題だ。

 もっというと、春・夏連覇以前からの藤浪の課題といっていい。

右打者と左打者で、大きく異なっていた藤浪の投球内容。

 藤浪は、右打者と左打者と対峙する時で、ピッチングスタイルが異なる。

 プロに入ってからは特に顕著で、右打者と対戦する時ほど左打者には大胆に投げられていない。極めて慎重な攻めに終始するのだ。

 彼の特徴として「荒れ球」と度々言われるが、左打者に対してはその荒れ球がマイナスになっている。

「荒々しさを消したくなかった」。彼を育て上げた西谷監督は言う。

「藤浪は左打者が課題の投手であると思います。それは高校時代からそうでした。右打者の場合は、少々荒れていても腕を振って投げられる。そして、その荒れ球が有効になる。右打者のインコースに抜け気味にくるのが効いて、外のカットやスライダーが有効になる。しかし、左打者になると、左打者のアウトコースの球は、単なる抜け球にすぎない。そうなってくると、左打者のインコースのカットやスライダーが生きてこないし、インコースのストレートも真ん中に入ってくる。センバツの時は顕著でした。それが夏には、左打者のアウト・ローのストレートが決まるようになりました。それで、インコースのカット・スライダーが効いた。夏の準決勝や決勝はそういうピッチングだった」

 6月2日のソフトバンク戦で、藤浪が打たれた球種はほとんどが左打者への外のストレートだった。

 高校時代からの課題を改めて露呈したわけだが……しかし1試合トータルで見ると、日ハム戦やそれ以前と比べて改善している部分もあったのである。

【次ページ】 藤浪が見せた、試合中の絶妙な修正力。

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