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「紙一重」で地獄に落ちたヤクルトが、
高田前監督の予言通りに復活する日。 

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田口元義

田口元義Genki Taguchi

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photograph byTamon Matsuzono

posted2010/08/23 13:00

「紙一重」で地獄に落ちたヤクルトが、高田前監督の予言通りに復活する日。<Number Web> photograph by Tamon Matsuzono

 絶望の淵から立ちあがろうとしているあるチームが、セ・リーグの上位陣をかき回している。

 8月22日のゲームで、リーグ1位の33セーブを挙げている岩瀬仁紀が9回に打ちこまれ、中日はそのチームに敗れた。指揮官の落合博満は、「この順番(継投)で打たれたらしょうがない」と敗戦の弁を述べた。だが、落合の心中は穏やかではなかったはずだ。なにせ、8月はそのチームに対して6試合で1度しか勝てていないのだ。2位どころか首位すら狙える位置にいるだけに、正直なところ、相当、腹立たしく思っているに違いない。

 中日だけではない。首位の阪神も、8月はそのチームに2勝1敗と勝ち越してはいるが、阪神の番記者に言わせると「(そのチームは)いつも大事なゲームでいらんことしてくれる」と苦笑する。一夜にして首位から転落してしまった13日のような試合が多々あるというのだ。

 そして2位の巨人も、この8月に見事3タテを食らわされているのだ。

 シーズン終盤を迎えた今、セ・リーグでは阪神と巨人による首位争いに注目が集まっているが、ペナントレースを面白くしているのはこの2チームではない。8月22日現在(以下、すべての数値は同様)で14勝5敗。中日を含め上位3チームを9勝3敗とカモにし、言うなれば「上位いじめ」をしているのは、4位の東京ヤクルトだ。

5月26日。高田繁監督が辞任を発表した、どん底の日。

 あの日、まさかヤクルトがこれほどまでの快進撃を演じるようになるなど、誰が予想しただろうか。むしろ、どのくらいの借金を抱えて最下位になるのか、と考えたほうが現実的に思えたほどだ。

 6連敗の後、1勝を挟んで泥沼の9連敗。借金も19に膨れ上がり、首位から15ゲームも離された5月26日のゲーム後、高田繁監督が辞任を表明した。理由は、「これ以上、負けが続くと選手たちの士気が下がり、チームにも迷惑をかけるから」だった。

 今にしてみれば、この時の会見で高田は興味深いことを言っていた。

「本当に紙一重。でも、まだまだシーズンは長いからチャンスは必ずある」

 そして、こんなことも言っていた。

「去年は代役が活躍してくれたからクライマックスシリーズに進むことができた。今、ピッチャーは頑張っている。ただ、クリーンナップはじめ打線が繋がらないからズルズルと負けてしまう」

 残念なことに、あの時本人が、自嘲気味にポツリ、ポツリと言葉を繋いでいたにせよ、「負け惜しみ」「言い訳」としか受け取ってもらえなかった。現在、結果がついてきているから言えることなのだが、高田の辞任の理由は不振の責任を取っただけではなかったのではないかと思えて仕方が無い。自らを犠牲にしてでも、チームの「紙一重」の悪い流れを断ち切りたかったのではないだろうか、と。

【次ページ】 12球団ナンバーワンの安定感を誇るヤクルトの投手陣。

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