野球善哉BACK NUMBER
興南、圧巻の勝利で春夏連覇。
“ガッツポーズ無し”が生んだ偉業。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byHideki Sugiyama
posted2010/08/21 20:00
「喜怒哀楽を出さずに、冷静に戦うということなんです」
今大会の彼らはずっとそうだった。興南は一度として得点時にガッツポーズをしていない。我喜屋優監督はその取り組みについて、こう語っている。
「相手もあることですから、刺激してもいけない。喜怒哀楽を出さずに、冷静に戦うということなんです。高校生ですから喜怒哀楽は出てきますけど、それは身体の中で燃やせばいいわけです。精神的なコントロールをするということ。舞い上がるのではなく、足元を見つめた野球をする」
得点を取っても舞い上がることはないから、逆に、得点を奪われても落ち込むことがないのだ。ガッツポーズを激しくするチームは、押し並べて落ち込みが激しいのが今大会の特徴の一つでもあったが、興南の場合はメンタルが常にコントロールされているから、心の揺れが非常に少ない。だから、試合がどんな展開になっても、彼らは変わらず自分たちの野球を実践するだけで、気がつけば主導権を奪い返してしまっているというだけなのだ。
ただ、そんな心掛けも、試合中だけコントロールしようとしてもできるものではない。常日頃からの鍛錬が、彼らの強さの根底にあるのだ。
試合で冷静であるために、日常生活から徹底的に叩きこむ。
興南は常日頃の練習量と同じように、日常生活を重んじている。日常で様々起こる物事に対し、挨拶や礼儀など小さいことにも常に気を配ってきた。副主将の伊礼伸也はいう。
「厳しく言われてきたのは、時間厳守、ゴミ拾い、整理整頓ですね。ゴミ拾いは、意識しないで拾えるようになる。部屋は後輩を使わないで、自分でしっかり片付ける。そういった細かいことをしっかりやってきたので、細かいことに気づくプレーにつながったのかなと思います。今大会、2死からチャンスを作っていると思うのですが、それも、小さいことに気づけているからだと思います」
その伊礼、2回戦の明徳義塾戦では2点リードから1点を返され、悪いムードの中、相手を突き放すホームランを放っている。「流れが悪いのは分かっていました。2死だったし、自分が流れを作ろうと思って」打席に入った末の貴重な一打だった。
そしてこの日の決勝で、伊礼は先制適時打を放った。