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敵を分析せずに勝ってきた!?
九州学院vs.東海大相模の舞台裏。 

text by

中村計

中村計Kei Nakamura

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photograph byHideki Sugiyama

posted2010/08/19 20:00

敵を分析せずに勝ってきた!?九州学院vs.東海大相模の舞台裏。<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

徹底的に相手投手を分析していた東海大相模。

 監督の門馬敬治は九州学院のエース、渡辺政孝の攻略法をこう語っていた。

「渡辺君はヒジの出所を少しずつ変えて、スライダーの軌道を微妙に変えている。その出所はしっかり研究してきた。しっかりみて、だまされないようにしたい」

 結果からいうと、10-3で東海大相模が九州学院を圧倒した。だが、現場で観ている限りこの点差ほどに実力差があった試合ではなかったのだ。

 例えば、九州学院の8回裏の集中攻撃は目を見張るものがあった。一二三の全35球中13球もファウルで粘るなど、5安打中4本が追い込まれてからの安打だった。門馬が言う。

「追い込まれると、ファウル、ファウルで粘る。あの粘り強さは試合前からわかっていた。だからうちの今日のテーマは、あの粘り強さを上回る粘りを見せようということだった」

 8回裏、この日2本目のヒットを打った1番の井翔平は話す。

「無我夢中だったのであんまり覚えていないんですけど……」

 また「1年生四番」で、同じく8回に中前打を放つなど2安打と活躍した萩原英之はこう言う。

「出たとこ勝負の方が集中できる。それにデータを入れて速い、速いと思ったら速くなる。それよりも知らないで、遅い、遅いと思っていくぐらいの方が自分のスイングができる」

 もちろん、どちらが得策かは一概には言えない。だが、この果敢さを生んだものは、ひとまず相手に合わせるのではなく、あくまで自分たちの野球に徹するのだという強靭な“覚悟”だったと言っていい。

 スポーツにおいて、相手を意識するあまり、自分本来のプレーを見失ってしまうというケースは往々にしてある。

 今日の試合を見て、改めて思った。やっぱり、敵をあえて知らないという戦術はアリだ。

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