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不正投球、同性愛などで議論白熱。
変わりゆくメジャーのタブー意識。 

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菊地慶剛

菊地慶剛Yoshitaka Kikuchi

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photograph byGetty Images

posted2013/05/15 10:30

不正投球、同性愛などで議論白熱。変わりゆくメジャーのタブー意識。<Number Web> photograph by Getty Images

司会陣と共にテレビで試合解説を担当しているジャック・モリス(右)。自身も1977年にタイガースでプロデビューしてから、ツインズ、ブルージェイズ、インディアンズなどで90年代半ばまで活躍した投手だった。

爪やすりは“不正”だが、クリームは“工夫”?

 実はある日本人メジャー選手から教えてもらったエピソードなのだが、日本でも有名なある大物ベテラン投手(今は現役引退している)は打席に立つ時に、わざと打撃用グローブを使用せずに素手でバットを握るようにしていたのだという。理由はバットに塗った滑り止め剤を手につけるためだ。そしてそれをつけた状態でボールを滑らないようにしていたのだ。この話を聞いた時に、大物投手が涙ぐましい努力をする姿が思い浮かび、思わず吹いてしまったのを今でも憶えている。

 つまり今回指摘された問題に関しては、長年メジャー球界では“工夫”と“不正”の境界線が曖昧な状態になっているのだ。かつてナックルボーラーのジョー・ニークロ投手が投球中に爪やすりを隠し持っていたのが発覚するという事件があった。これは明らかに行き過ぎた行為ではあるが、日焼け止めクリームを塗ることを不正と考えるのはかなり難しいことだ。

 ここではレッドソックスの投手たちが何か不正な行為をしたかどうかを検証するつもりはない。ただ現在の周囲の反応を見る限り、多くの関係者がモリス氏の指摘を「今更何を……」と感じているように思う。

ゲイを告白したコリンズが“男社会”に与える影響。

 もう1つは、NBA在籍12年のベテラン、ジェイソン・コリンズ選手(ボストン・セルティックス)が4月29日のスポーツ・イラストレイティッド誌のウェブサイトで、ゲイであることをカミングアウトした件である。米国の4大プロスポーツの選手で初のカミングアウトとして米国では大ニュースになった。

 コリンズは4大プロスポーツの選手で初めてカミングアウトしたというだけであって、別に彼が初めてのゲイの選手というわけではない。彼の他に、まだカミングアウトしていないゲイの選手がいる可能性も当然ある。

 マイナーリーグを含めれば4大プロスポーツの中で最も多くの選手を抱えるのがメジャーリーグだ。だが……不思議なことにメジャー球界でカミングアウトする選手がいないのも、紛れもない事実なのである。

 メジャーはかなり独特の男社会だといえる。今も球場のクラブハウスは選手の家族であっても男子しか入れない(女性メディアは入れるが、それでもごく限られた場所のみだ)。それほどまでに女性を受け入れることができない“聖域”でもあるだ。なので、カミングアウトするのは相当に勇気のいる行為だと容易に想像はできる。

 今回のコリンズのカミングアウトは、NBA界はもとより政界に至るまで多くの支援の声が集まっており、米国社会でもゲイの存在が確実に認知されていっているのは間違いない。NBAだけでなくアメリカのプロスポーツ界全体で大きな話題になっているこの出来事。果たしてコリンズの決断が、今後どのようにメジャーなど他のジャンルに影響を及ぼしていくのか気になるところだ。

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