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若き西武を牽引する片岡治大の、
“数値化できない”ファインプレー。 

text by

加藤弘士

加藤弘士Hiroshi Kato

PROFILE

photograph byHideki Sugiyama

posted2013/04/26 11:30

若き西武を牽引する片岡治大の、“数値化できない”ファインプレー。<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

ここ数年、好成績を残しつつもシーズン途中での故障離脱に泣かされてきた片岡。一昨年、昨年と2年連続で続いた手術も完治した今季は、完全復活への期待がかかる。

チームに声が無い! 元気が無い! 

 2013年、片岡のチーム内での立ち位置は、初めから盤石だったわけではない。

 昨季は右手首の故障にも泣かされ、プロ8年目で自己ワーストとなる52試合の出場に終わった。12月には登録名を「易之」から「治大」に変更した。相次ぐケガを治し、大きく羽ばたきたいとの思いが込められているのは、明らかだった。心機一転。レギュラーの座は保証されないまま2月、南郷キャンプでのサバイバルへと挑んでいった。

 まだ肌寒い2月1日からのキャンプ第1クール。投内練習や内野ノックに取り組む中で、片岡はチームの雰囲気に強烈な違和感を覚えていた。

 これまでのライオンズと、決定的に何かが違う。

 そうだ。声がない。元気がない。

 敢えてバカになった。デカい声を張り上げた。

 片岡とまったく同じことを考えていた男がいた。オリックスから移籍してきた32歳、山崎浩司だ。第1クールを終え、初めて2人で酒を酌み交わした。山崎の指摘は、ストレートなものだった。

「西武って、こんなん? 来て3日目のオレが言うのもアレだけど……。キツい練習、声を出さずにやっても、つらいだけだよ。声を出して、困ることはないんだから」

ムードメーカー役のベテランがいなくなって、初めて気付いた存在感。

 オフにはムードメーカー役のベテラン、平尾博嗣や阿部真宏がユニホームを脱いだ。いなくなって、存在の大きさが身に沁みた。そして、片岡は思った。敢えてみんなに言おうと。

 第2クール初日の準備運動前、山崎とともに若手内野手を集め、正直な思いを伝えた。

「つらい練習をつらい思いでやっていても、しょうがないよ。声だけでも出そう。静かにやるよりは、楽しくやった方がいい。何でもいいから、声を出そう」

 日を追うごとに、野手陣に活気が出て来た。大声が飛び交う、闘う集団になってきた。

 三十路突入を目前に控えた男の決心が、新生・ライオンズの空気を少しずつ変えていったのだ。

【次ページ】 「セカンドに片岡さんがいるから落ち着いて投げられる」

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