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アイルトン・セナは永遠に~英雄がF1に残したもの~ 

text by

今宮雅子

今宮雅子Masako Imamiya

PROFILE

photograph byTadayuki Minamoto

posted2013/05/01 06:00

アイルトン・セナは永遠に~英雄がF1に残したもの~<Number Web> photograph by Tadayuki Minamoto

バトン、アロンソ、ハミルトンらにとっての“セナ像”。

 そのミハエル・シューマッハーが昨シーズン末に2度目の引退を決め、2013年のグリッドには初めて、アイルトン・セナと走った経験のないドライバーだけが並ぶことになる。彼らにとってセナは、その時代背景とともに純粋な憧れの対象だ。F1は今よりずっと簡素でも、コース上の戦いはゴージャスだった。

「僕の記憶に残っている初めてのF1は、'89年の日本GP。セナとプロストがシケインで接触したことよりも、そこに至るまでの熾烈な戦いを鮮明に覚えている」と、ジェンソン・バトンは言う。フェルナンド・アロンソにとっても同じグランプリがもっとも古いF1の記憶。セナはスペインのカート少年のヒーローになり、永遠の目標になった。ルイス・ハミルトンの黄色いヘルメットはブラジルの英雄に倣ったもの……。

 さらに若い世代のドライバーにとって、アイルトン・セナは伝説の英雄になる。生中継よりも、ビデオやDVDを繰り返し見てセナに夢中になった彼らは、少し年上の先輩よりも記録に詳しい。23歳のダニエル・リカルドは、映像と、父親が話してくれたセナに強く憧れ「いつか彼のように、濡れた路面を走れるようになりたい」と言う。シーズン中もっとも設備が古めかしいインテルラゴスのサーキットさえ「彼が走った時と変わらないコース」「彼がいたのと同じパドック」として郷愁を生む。

現在のドライバーたちが享受する幸福は、一人の英雄が礎となった。

 アイルトン・セナという星を中心に、宇宙が広がっていく。

 1994年以来、F1界においてもっとも画期的な進歩を遂げたのはサーキットとマシンの安全性だ。いまでは“F1ドライバー”という言葉にも刹那的な響きはない。それでも、セナがそこで輝いているかぎり、ドライバーたちは忘れはしない。自分たちが享受している幸福が、何を礎に築かれたのかということを。

 僕の友達、アランへ。I miss you!

 あのイモラの土曜の朝、フランスのテレビのためにコース紹介をする直前、セナが走行しながら送ったメッセージが、日曜朝の放送を通してぎりぎりのタイミングでプロストを解放したこと、そしてバトンを受けることのなかったシューマッハーが孤独なチャンピオンとなったことを、彼らはみんなどこかで感じ取っているから――。

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アイルトン・セナ
ネルソン・ピケ
ナイジェル・マンセル
アラン・プロスト
ミハエル・シューマッハー
ジェンソン・バトン
フェルナンド・アロンソ
ルイス・ハミルトン

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