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優勝争いから脱落したマリナーズは、
エースを「商材」に未来へ投資する。 

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生島淳

生島淳Jun Ikushima

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posted2010/07/26 10:30

優勝争いから脱落したマリナーズは、エースを「商材」に未来へ投資する。<Number Web> photograph by Getty Images

エースといえども「商材」。これがアメリカ流の捉え方。

(3) 白旗揚げて、トレードだ!

 メジャーリーグではプレーオフに進めないと意味がない。6月から7月の時点でプレーオフに進めないと分かったチームは、早々に「白旗」を揚げてしまうのである。日本で同じようなことがあったら、ファンはなかなか許してくれないと想像するが、アメリカのファンは「とっとと諦めて、来季に備えてトレードしろ!」と怒り出しかねないのだ。このあたりの感覚は日本にはない。

 マリナーズは優勝を諦め、今季終了後にフリーエージェント(FA)になるリーをトレードに出すべく各球団と交渉を始めた。

 えっ、リーと再契約を交わす手だってあるじゃないか、というもっともな質問もあるにはある。しかし来季に向けてリーは3年間で70億円前後の契約を求めてくると思われ、マリナーズにはそれだけの予算がなく、もともと引き止める気もなかったと考えるべきだ。つまり、リーは優勝を狙って1年間だけ働いてもらおうとマリナーズは考えていたのだ。

 しかし優勝争いから脱落してしまっては、リーを保有していても意味がない。シーズン終了後にFAになってシアトルから去っていくだけだ(ドラフトで埋め合わせの指名権は獲得できる)。

 だとすると、リーを「商材」として交渉の素材にするのがアメリカ流の考え方なのである。

 マリナーズの弱点は1試合3点程度しか取れない打線。加えて、捕手の強化も取りざたされていた(打てない上に、パスボールが目立つなど守備の不安がある)。マリナーズ側としてはリーを商材にして、コストの安い捕手か一塁手を獲得しようと考えた。

 これがメジャー流の「チーム編成」なのである。

ヤンキースを蹴って、条件をのんだレンジャーズと合意。

(4) ツインズ、ヤンキース、えっ、レンジャーズだって?

 噂にのぼったのは次のようなチームである。

・ツインズ
捕手のウィルソン・ラモスが噂に。なぜならツインズにはジョー・マウアーという大スターがいてラモスはツインズで捕手になる見込みがないため。ツインズ側はラモスを商材にリーを獲得しようとしたわけだ。

・ヤンキース
ヤンキースにもラモスと同じような捕手、ジーザス・モンテーロがいる。この球団のマイナーにはホルヘ・ポサダの後釜を狙う若手が続々と育っており、モンテーロを出しても穴埋めは十分に出来るとヤンキースは判断し、リーの獲得に真剣だったと伝えられる。実際、トレードは成立直前だったようだ。

・レンジャーズ
ところがリーをさらっていったのは、マリナーズと同地区のレンジャーズだった。マリナーズ側はスイッチヒッターの強打者になる潜在力を持つジャスティン・スモークを望んだが、当初レンジャーズはそれに応じなかった。しかし土壇場になってスモークを取引の一部に組み込むことをレンジャーズが同意したため、両チーム間のトレードが成立した。

【次ページ】 「利」を優先させたトレード劇の勝者はどのチームか?

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クリフ・リー
シアトル・マリナーズ

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