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<葛藤を経た21歳の現在地> 石川遼 「沈黙を破る」~米ツアー1年目の挑戦~ 

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柳川悠二

柳川悠二Yuji Yanagawa

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photograph byTaku Miyamoto

posted2013/03/23 08:02

<葛藤を経た21歳の現在地> 石川遼 「沈黙を破る」~米ツアー1年目の挑戦~<Number Web> photograph by Taku Miyamoto

2年ぶりのツアー優勝で「ひとつ殻は破れた」。

 昨年11月の三井住友VISA太平洋マスターズで2年ぶりの勝利を挙げた。涙でチームスタッフと抱擁を交わしたが、会見場では相変わらずのコメントに終始した。しかし、あの勝利で「ひとつ殻は破れた」と石川は話す。

「9勝目までとは内容が大きく違いました。ショットのバリエーションも増え、自分のレベルがひとつどころか、ふたつもみっつも上をいっていた」

 そしてふと少年のような表情になり、嬉しそうにこんな話を始めるのだ。

「この前ね、3番から9番までアイアンの試打をしていたら、7番だけ自分が思うより2ヤード飛ばないんです。あれおかしいなと思って確認してもらったら、ロフトが0.5度ぐらい寝ていた。クラブの担当者も気付かなかったから、僕も少しはロボットに近づいているのかな(笑)」

腰痛を考慮した新スイングで臨んだ米初戦は135位に。

 今季結果を残せていない最大の要因は、昨年夏頃から苦しむ腰痛だ。詳しい病名は明らかにしていないものの、石川は1月4日に病院を訪れてMRI検査を受けたという。診断後、医師やトレーナーと相談の上、腰や股関節に負担をかけない新スイングに着手した。

 1月の渡米直前に埼玉にある石川家を訪ねると、夜遅い時間にもかかわらず練習場に向かう石川の姿があった。

 初戦のヒュマナ・チャレンジは17日が初日。わずか2週間で、新スイングに取りかかるのも無謀という見方もできよう。だが、1年の戦いを見据えればこのタイミングしかなかった。取り組まずに後悔するなら、挑戦したあとに後悔すればいい。なりふり構わずに新スイングをものにしようとしていた。

 ヒュマナ・チャレンジを135位という結果で終えた日。多くの記者が引き上げたクラブハウスの前で、迎えの車を待つ石川がポツリ漏らした一言が妙に耳に残った。

「間に合わなかった……」

 偽りない石川の本心に聞こえた。本人にその意を問うと冷静な答えが返ってくる。

「新スイングを自分のものにすると同時に、結果を残すのはやはり難しいことでした。今は試行錯誤の時期だと受け止めています」

【次ページ】 マスターズで「結果を残すしかない」という覚悟。

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石川遼

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