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“横綱相撲”の呪縛を解かれた白鵬。
新たな一面を引き出した「西の風景」。 

text by

阿部珠樹

阿部珠樹Tamaki Abe

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photograph byJMPA

posted2013/03/20 08:01

“横綱相撲”の呪縛を解かれた白鵬。新たな一面を引き出した「西の風景」。<Number Web> photograph by JMPA

大相撲春場所、西の横綱・白鵬は10日目を終えてただ一人全勝。一方、東の横綱・日馬富士は3敗を喫し、優勝争いからは大きく後退している。

ひとり横綱時代には見られなかった溌剌とした取り口。

 5日目、6日目の相撲にそれがよく表れていた。5日目の相手は栃煌山。突進してくる相手に対して、軽く当たったあと、とっさに体を開き、相手の右腕を抱え、力を利用するように土俵に転がした。決まり手は「とったり」。横綱が「とったり」で勝つなんてとうるさい相撲通は怒るかもしれない。白鵬も、東の正横綱だった先場所あたりまでなら、おそらくあたりを真正面から受け止め、押し込まれて場内が沸く場面があったかも知れない。しかし、軽く動いてサッととったりで決めた動きにはしばらく見られなかった溌剌とした雰囲気が漂っていた。

 6日目は日馬富士を破って意気上がる千代大龍が相手だった。強烈なあたりが武器で調子もいい。どう受け止めるかとみていたら、まず右で一発顔を張り、相手の出足を止めてからすぐに体を開いて突き落としで仕留めた。張ってから差してまわしを取る張り差しはよく見せるが、差す前にあっさり勝負をつけて見せた。

 7日目は制限時間前に自分のほうから立って時天空を破った。横綱が突っかけるなどめったにないことで、場内も戸惑っていたが、相手が立って来そうな雰囲気を察して先手を打ったのだろう。もし東の正横綱、ひとり横綱だったら、気配を察しても自分のほうから立つことはなかったのではないか。

「西」の自由さが“横綱相撲”の縛りをやわらげる。

 なんだ、横綱らしからぬ相撲ばかりじゃないかというかもしれない。たしかに、胸を出して相手を受け止め、自分の型に持ち込んで勝つ、いわゆる横綱相撲ではない。

 しかし、そこに「西の白鵬」の新しさがあるように思えた。これまでは、知らず知らずのうちに、東の正横綱という地位に縛られていたのではないだろうか。

 いつも正攻法の受ける相撲で相手のいいところも引き出しながら横綱らしさを見せて勝つ。優勝は最後まで争わなければならない。それがいつも最後に土俵入りして、東から土俵に上がり、結びの一番を取る者に課せられた役目だ。そうした義務感が白鵬を縛り、取り口に軽快さが見られなくなっていったのではないだろうか。

 違った風景を見ながら土俵に上がった春場所は、そうした白鵬の縛りを少しやわらげてくれた気がする。西は追いかける立場だ。その気楽さもある。

 初場所に全勝優勝して、春場所は東の正横綱になった日馬富士が序盤に連敗したのは、これまでの白鵬と同じように、地位が強いる役割に戸惑った結果といえるかもしれない。

 強力な3番、4番がいるチームで、どちらかが不調になったとき、打順を変えてやるといったことはよく行われる。今場所の白鵬も似たところがある。降格が彼の土俵生命を延ばしてくれるかもしれない。

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