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<シリーズ 3.11を越えて> 小笠原満男 「子供たちの笑顔を守り続けるために」~“東北人魂”に込めた思い~ 

text by

佐藤俊

佐藤俊Shun Sato

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photograph byMiki Sano

posted2013/03/11 06:01

<シリーズ 3.11を越えて> 小笠原満男 「子供たちの笑顔を守り続けるために」~“東北人魂”に込めた思い~<Number Web> photograph by Miki Sano

“東北人魂”が物資の支援を止めた理由とは?

 年が明けた。

 1年目の反省を活かして、満男たちの支援活動にも変化が見られた。東北出身のJリーガーで作る「東北人魂を持つJ選手の会」は、物資の支援を止めた。

 被災地にも仮設店舗が出来つつあり、その人たちの商売の妨げをしてはいけないと考えたからだ。“東北人魂”で行なうイベントは満男が打ち合せにも参加し、企画の段階から意見を出すなど積極的に関わった。彼がこだわったのは、運営を自分たちの手でやること。そして、被災地を訪れるイベントの際、参加した選手たちに、甚大な被害を受けた沿岸部の地域を見せることだった。

「これは1年目の反省でもあるんですが、仙台、宮古、福島でイベントをしたときに、参加した選手たちは本当の被災地を見ていないんですよ。12mの津波が来たんだといっても、普通の人にはピンとこない。でも、津波の爪痕というか、車が屋根に乗っかったのを見れば説明はいらないし、どれだけすごいことが起きたのか分かってもらえると思うんです。

 その状況を見て、何も感じない人はいないでしょう。被災した建物の取り壊し作業も進みつつあったから、瓦礫が撤去される前に被災地を見てもらい、あの出来事を忘れないで欲しかったんです」

「俺たち自身が“やりたい”という気持ちを持って運営している」

 '12年6月には、イベントに参加してくれた内田篤人と吉田麻也を大船渡、陸前高田の被災現場に連れて行った。光景を見た2人は絶句し、吉田はブログに「自分の目で見て、肌で感じることで支援に対する姿勢も変化しましたし、訪れて良かった」とその気持ちを綴った。

「被災地を訪問するイベントって、お膳立てをしてもらって、現場に行けば簡単に済むわけですよね。でも、“東北人魂”のイベントは違うんです。俺たち自身が、自ら“やりたい”という気持ちを持って、運営しているからこそ、参加者に『良かったね』と言ってもらえるんだと思う。サッカー選手は、本来ならシーズンオフは自主トレをしたり、体を休めないといけないのかもしれないけど、選手たちにとっても、勉強になっていると思うんですよ」

 おそらく、このことを一番、実感していたのは満男自身ではないだろうか。

【次ページ】 昨秋から聞こえてきた「小笠原が変わった」という声。

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小笠原満男
鹿島アントラーズ

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