スポーツ・インサイドアウトBACK NUMBER
イチローと傷だらけのヤンキース。
~今季の役割は「将棋の銀」~
text by
芝山幹郎Mikio Shibayama
photograph byGetty Images
posted2013/03/11 10:30
オフも厳しいトレーニングを積み、万全の体調で移籍2年目の春を過ごすイチロー。
つなぐ野球への方向転換でイチローの万能ぶりが際立つ。
では、ヤンキースの野球はどう変わるのか。反射的に予想できるのはスモール・ベースボールへの体質変換だ。
1番にガードナー、2番にイチローというスピードスターを並べ、カノー、ユーキリス、ハフナーにつないで点を稼ぐ。そうこうしているうちにテシェイラが戻り、ジーターが元気になり、グランダーソンも5月初めには復帰するだろう。
ということであれば、イチローに求められる役割は、昨シーズンよりもずっと大きくなるにちがいない。オープン戦では「2番レフト」での出場が多いが、これはガードナーの俊足を生かすためだ。バントであれ、ヒットエンドランであれ、「なんでもできる」イチローだけに、小技を要求される機会は当分増えつづけるのではないか。
今季のイチローは野球通を唸らせる「いぶし銀」に!?
その意味では、フロリダでの春季トレーニングという環境は、イチローに合っているかもしれない。
ご承知のとおり、フロリダは湿度が高い。イチローは過去12年間、アリゾナ州ピオリアで球春を迎えてきた。ただ、空気が乾燥していて打球がよく飛ぶピオリアでは、長打力が身についたという錯覚を抱きかねない。
一方、もともと沼地だったフロリダ州タンパでは、打球がすぐにお辞儀をする。バットを乾かす除湿ケースの出番も、ずっと多くなっているにちがいない。逆にいえば、こちらは小技の磨き上げに恰好の場所だ。イチローほどの選手になればいまさらそんな鍛錬も不要だろうが、メンタル的に、よりいっそう渋い境地をめざす可能性は考えられるのではないか。