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吉田麻也が何度も繰り返し語った、
「絶対負けてはいけないこと」とは? 

text by

西川結城

西川結城Yuki Nishikawa

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photograph byTomoki Momozono

posted2013/03/05 10:30

吉田麻也が何度も繰り返し語った、「絶対負けてはいけないこと」とは?<Number Web> photograph by Tomoki Momozono

3月3日の28節終了時点で24試合連続フル出場している吉田麻也。取材では、試合映像を観ながら、明確な問題意識と自らのプレーへの冷静な視点を交えながら、40日間の激戦を振り返ってくれた。

なぜ、吉田は同じフレーズを繰り返したのか。

 前方正面から向かってくるハイボールに対して、CBはそれをヘディングで跳ね返す、もしくは味方にパスをつなげようと試みるのが常だ。対する相手FWは、自分の背後にそのCBの存在を感じながら、背走するような状態で競り合うことになる。体の向きからしても、この場合の空中戦は通常、CBが有利である。

 それでも“CB吉田麻也”は、プレミアリーグの並み居る屈強FWに対して、そうした勝負で後手を踏むことが、まだある。事実、デンバ・バにも同じようなシチュエーションで競り負けてしまう場面があった。画面に映し出されたシーンが、まさにその一コマだった。

 なぜ、吉田は同じフレーズを繰り返したのか。もちろん、彼が日々の試合で“競り負けない”ことの重要性を痛感しているからに他ならない。ただ、それは腹立たしさ、苦々しさの裏返しでもある。なかなかヘディングで勝てない、またたとえ相手より先に頭でボールに触ったとしても、ギリギリの対応となってしまったためにこぼれ球が敵の選手の前に転がってしまうこともある。

毎試合タフだし。いやーしんどい……(笑)。

 現状の自分には、イングランドでCBに求められているプレーや、自らが理想とする姿に、まだまだ追いつけていない部分が存在する。そのことに、吉田は戒めと悔恨が入り混じった感情を抱えているようだった。

「こっち(イングランド)では、クロスやロングボールを入れられた場合、日本のように戦術で守り切るとか人数をかけて凌ぐといった理屈や概念はないんです。競り合いの場面ではとにかく個人で勝つ。そうでないと、この国では外部にはもちろん、味方からもセンターバックとして認めてもらえない」

 CBとして世界で最も厳しい環境にさらされているピッチに、いま吉田は立っている。プレミアで成功を収めてきた外国籍CBのほとんどは、体格に恵まれた欧州の選手たちばかりだ。大柄な北欧圏出身CBの多くが、この地で名を馳せてきたことからも、高さや強さといった能力が必須条件、いや最低条件であることがわかるだろう。

 その舞台で、189cmの日本人DFが一人、勝負に挑んでいる。ガツガツと体同士がぶつかり合う音が聞こえてくるような、激しい競り合いが日常茶飯事の世界で、吉田は強者、曲者たちに対抗しているのだ。

「他のリーグよりも休みは少ないし、毎試合タフだし。いやーしんどい……(笑)。でも、僕の中で日本人DFを代表しているのはもちろんのこと、実はそれ以上にアジアのDFを代表して戦っている気持ちもすごく強く持っています。とにかく、欧州の奴らに舐められたくない。その一心ですよ」

 いつの日か、アジアを代表する日本人DFが、世界トップレベルの攻撃タレント陣の前に壁となり立ちはだかる――。吉田麻也にとっては、近い将来自らの手でそんな時代を作り出す覚悟を強めた、激闘の40日間でもあった。

次回の「サバイブ」は、Number826号(4月4日発売)に掲載予定です。
ウェブ版オリジナル連載「Survive PLUS ~頂点への道~」の第2回も合わせて、楽しみにお待ちください。
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吉田麻也
サウサンプトン

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