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カタールは本当に不正を行ったのか?
'22W杯招致をめぐる仏メディアの告発。 

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田村修一

田村修一Shuichi Tamura

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posted2013/02/24 08:01

カタールは本当に不正を行ったのか?'22W杯招致をめぐる仏メディアの告発。<Number Web> photograph by Getty Images

2010年12月2日、2022年W杯開催地をめぐる投票が行われ、カタールに決定。写真は、自国での開催決定を喜ぶカタールのハマド首長(左)とブラッターFIFA会長。

少なくとも日本の4倍以上の招致費用を使ったカタール。

 エリック・シャンペル、フィリップ・オクレール両記者の署名による原稿は、不正疑惑を示すさまざまな事例をあげている。この場合の不正とは、カタールによる非合法な利益供与と、その見返りとしてのFIFA理事会でのカタールへの投票である。

 2010年11月、ワールドカップ開催国決定の理事会を2週間後に控えたある日、ブラッターの私的コンサルタントを務めるある人物が、住所非公開の豪華オフィスにFFの記者たちを招待した。彼はこう語っている。

「イングランド('18年大会に立候補)は1次投票で落ちる。彼らはよくても2票しか取れず、18年大会はロシアの手の中にある。'22年? それはカタールだ」

 そのひと月前に英サンデータイムズ紙は、ふたりのFIFA理事アモス・アダム(ナイジェリア)とレイナル・テマリー(タヒチ)の秘密インタビューと盗撮に成功し、「利益供与を受けたうえで投票を決めたい」という証言を引き出している。また同紙は、ジャック・アヌマ(コートジボワール)とイッサ・ハヤトウ(カメルーン、CAF=アフリカ連盟会長)が、投票と引き換えに150万ドルを受け取ったというコメントを、招致委員のひとりから得ている(のちに否定)。

 たしかにカタールは、正規の招致費用だけでも3375万ドルを使っている。これはオーストラリアの2660万ドルを別にすれば、大本命であったアメリカ(1175万ドル)の3倍、最も少なかった日本(790万ドル)の4倍以上である。

 カタールW杯招致アンバサダーに就任したジダンは、その報酬として1100万ドルを受け取った。このことは、日本でも報じられて話題になったから、記憶している読者も多いだろう。またカタールは、2010年1月にアンゴラで行われたCAF総会の費用125万ユーロを全額負担して「総会を買い取り」(FF誌)、4人のアフリカ人FIFA理事と独占的に接触した。ただしそれらは多額ではあっても、公表されたやましいところのない金であるが……。

アルゼンチンやブラジル協会に対する“グレー”な招致活動。

 とはいえ、正規な招致活動と袖の下との区別は簡単ではない。

 W杯開催国を決定する理事会の2週間前、2010年11月17日にドーハでおこなわれたブラジル対アルゼンチン戦は、アルゼンチンのある関係者によればそれぞれの協会に700万ドルが支払われたという。世界・欧州両チャンピオンのスペインの1試合価格(200万ユーロ)の3倍である。だがこれも、招致活動としては少しグレーでも、不正というわけではない。

 また、財政危機に陥ったアルゼンチンリーグを救うために、カタールがアルゼンチンサッカー協会に7840万ドルを贈ったとする米ウォール・ストリート・ジャーナル紙の記事は事実であるのか。フリオ・グロンドーナ・アルゼンチン協会会長が否定し、他のメディアも協会も追跡調査しなかった表には出ていない金の流れが実際にあったのであれば、それは不正であるのかないのか。

 さらにいえば、リカルド・ティシェイラ・ブラジルサッカー協会会長(当時。ジョアン・アベランジェFIFA前会長の娘婿)が、2011年11月にドーハでISE(インターナショナル・スポーツ・イベント)と結んだ契約(2022年までブラジル代表の親善試合の開催権を、1試合あたり1050万ドルで売却)には、ティシェイラ個人への私的な利益供与は含まれていなかったのか。

 ケイマンに籍を置くペーパーカンパニーのISEは、モハメド・ビン・ハマムAFC会長(当時)の個人使用のための金1400万ドルを、2008年にAFC宛に支払っている。他方で叩けば体中から埃が出るテシェイラは、追及を避けるために2012年3月、すべての役職――ブラジル協会会長とFIFA理事、2014年ワールドカップ組織委員長――を突然なげうってマイアミに移住している。

【次ページ】 関係者が口を閉ざす、フランス大統領官邸での会合。

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