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第1回アテネから続く伝統の危機。
レスリング五輪存続へのカギとは。 

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松原孝臣

松原孝臣Takaomi Matsubara

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posted2013/02/25 10:30

第1回アテネから続く伝統の危機。レスリング五輪存続へのカギとは。<Number Web> photograph by AFLO

2月20日都内の日本記者クラブで会見し、五輪存続を訴えた吉田沙保里。「夢を持ってがんばっている子どもが夢を絶たれていくと思ったら心が痛い」と思いを語った。

 以前、手弁当でちびっ子からジュニア世代まで教えているという沖縄のレスリング指導者に会ったことがある。

「いつか、オリンピックで活躍する選手を出したいんですよ」

 その先生は、笑顔でそう語っていた。

 呼応するように、全国レベルで活躍するようになっていた教え子の一人はこう語った。

「やっぱりオリンピック、出たいですよね。夢だし、かなえたいです」

 最初にこのニュースを耳にしたとき、2人の表情と言葉が思い浮かんだ。

 たぶん、全国にオリンピックを目指してきた選手、コーチがいる。日本ばかりではなく、各国にも当然いるだろう。彼らはこのニュースをどう受け止めたのだろう。

IOCの調査報告書は8月に公開される見通しだが……。

 国際オリンピック委員会(IOC)の理事会が、オリンピックの中核競技からレスリングを除外すると決定してから、2週間ほどが過ぎた。

 その決定の理由は、今なおはっきりしていない。

 IOCが除外を決めた判断材料のひとつとして、普及度、人気など39項目を調査した報告書があるという。しかしその内容は現時点では非公開で、公開されるのは8月になるとの見通しを語っている。

 そんな不透明な経緯だったために、日本対IOCという図式ではないにせよ、さまざまな推測がなされ、明確にできない理由があるのではないか、といういらぬ勘ぐりも成り立ってしまっている。

 ロンドン五輪の男女合わせたメダルの総数の順に並べると、ロシアと日本が4、イランが3、アメリカとアゼルバイジャンが2、キューバ、韓国、ウズベキスタンが1。理事の多くを輩出している西ヨーロッパ諸国は金メダルを手にしていないことも、あれこれ余計な想像をかきたてる要因ではある。

 いずれにせよ、IOCの選択には、疑問を感じずにはいられない。

2000年以上の歴史を持つレスリングの普遍性と魅力。

 レスリングの歴史は古い。その原型は、メソポタミアで発掘された石板などに描かれていることから、紀元前2000年以上もさかのぼることができると言われている。

 また、アテネで行なわれていた古代オリンピックでも実施されており、1896年にアテネで行なわれた第1回オリンピックから採用されていた8競技のうちのひとつでもある。

 千年単位で継承されてきた偉大な競技なのである。

 その理由は、レスリングの持つ普遍性であったり、魅力によるものではなかったか。

【次ページ】 レスリングを排除することは五輪自体の否定につながる。

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