日本は戦った。チャンスはあった。
アンチ・フットボールではなかった!

戸塚啓 = 文 ⇒この著者の記事一覧

text by Kei Totsuka

photograph by Getty Images

日本は戦った。チャンスはあった。アンチ・フットボールではなかった!

 この現実を受け止めるためにふさわしい言葉が、すぐには見つからない。

 胸のうちに渦巻く思いは、吹き出そうとしてもがいている。語るべきことはいくつもある。それなのに、何から語ればいいのかが、日付が変わったいまも整理できていない。

 史上初のベスト8入りは、手の届くところにあった。だが、どちらかのチームのミスによって結末を迎えるPK戦は、誰かが結果に対する責任を負わなければならない。今回はその役割を、駒野が負うことになってしまった。オーストラリアとPK戦にもつれた'07年のアジアカップ準々決勝で、彼は3人目に登場してPKを決めている。ジュビロ磐田ではプレースキックのキッカーを務めることもある。PKの信頼度も厚いと聞く。6月29日は彼の日ではなかった、と理解するしかない。

 日本は戦った。

“アンチ・フットボール”ではなかった。

遠藤のトップ下での起用が日本を攻撃集団に変えていた。

 これまで以上に意欲的な姿勢を見せたのは間違いないだろう。岡田武史監督が「前半の20分くらい」に指示を出した遠藤のトップ下への変更。その効果がピッチ上にはっきりと表れたのは後半開始からだった。「リスクを冒してでも点を取る考えだった」という指揮官の戦う意欲の表れである。決定機と呼べるものはなかなか作り出せなかったが、自陣にステイしているだけでない試合運びは、今大会で初めてと言っていいものだった。

 攻撃的な姿勢の補強材料となっていたのは、今大会でチームの強みとしてきた粘り強いディフェンスである。蓄積疲労を隠しきれないなかでのひたむきなプレーは、目を覆いたくなるようなシーンの直後にしばしば安堵を呼んだ。

 闘莉王と中澤のコンビは、191センチのロケ・サンタクルスと187センチのバリオスに制空権を譲らず、後半途中から登場した193センチのカルドソからも自由を奪った。二人のセンターバックの安定感がなければ、GK川島の負担は相当なものになっていたはずだ。大会直前で守護神に指名された背番号21の好セーブは、シュートコースが限定されていたからこそのものでもある。

力を出し惜しみする選手はひとりもいなかった。

 クロスに対するカバーリングが不安視されていた両サイドバックも、細心の注意を払って相手FWに対処している。そのうえで、駒野と長友はタッチライン際を精力的にアップダウンした。

 力を出し惜しみする選手は、ひとりもいなかった。

 体力が枯渇してもなお動きを止めない青いユニフォームからは、何かのきっかけで相手のゴールをこじ開けてくれそうな期待感が漂っていた。何よりも、大会前にうっすらと漂っていた劣等感が消えていた。グループリーグを勝ち上がったことによる自信や手応えが、2月の東アジア選手権からチームを蝕んできた不安を払しょくしたからだろう。

「パラグアイとはあまり差を感じなかったですし、そんなにやられてるという感じもしなかったです。だから、余計に悔しい部分はあります」

 ゲームキャプテンを務めた長谷部は、割り切れないような表情で語った。そう、チャンスはあったのだ。

<次ページへ続く>

【次ページ】 どれほど素晴らしい戦いでも敗北の結果は変わらない。

筆者プロフィール

戸塚啓

戸塚啓

1968年生まれ。'91年から'98年まで『サッカーダイジェスト』編集部に所属。'98年秋よりフリーに。2000年3月より、日本代表の国際Aマッチを173試合連続で取材中('10年4月現在)。近著に『世界に一つだけの日本サッカー』(出版芸術社)、『新・サッカー戦術論 対角線上のレフティに注目せよ!』(成美堂出版)がある。


Numberオリジナルグッズ作成

サッカー日本代表ニュース

サッカー日本代表ニュース一覧へ

761

アスリートの本棚。
読書が彼らを強くする 
9月2日発売 目次を見る
最新号表紙
ナイトランって気持ちいい!!世界最高のサッカーをWOWOWで見る!有名選手のサイン入りグッズが当たる!言わせろナンバー プレゼントキャンペーン

フォトギャラリー

一覧へ
成田・金子の果敢なヘッドスライディング 砂を巻き上げ猛然と3塁を狙う報徳学園の谷
聖光学院の4番・遠藤雅。打席前の豪快な雄叫び 2ランホームランを放った履正社“T-山田“

文藝春秋の新刊紹介

表紙

野球へのラブレター
長嶋 茂雄・著

天覧試合秘話から、松井、イチローとの知られざる絆まで。ミスターのベースボール讃歌

Amazon.co.jpで買う

表紙

中澤佑二 不屈
佐藤 岳・著

劣等生がなぜ日本代表のキャプテンにまでなったか。彼を見続けてきた記者が解き明かす

Amazon.co.jpで買う

表紙

いざ志願! おひとりさま自衛隊
岡田 真理・著

ごくフツーの女性が酔った勢いで応募した予備自衛官補の試験に合格! 驚きと笑いの体験ルポ

Amazon.co.jpで買う

表紙

中村俊輔オリジナルサッカーノート3冊セット

中村俊輔選手が「17歳の頃からずっとこんなノートが欲しかった」という、サッカーノート決定版がついに完成

Amazon.co.jpで買う