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<カメルーン戦秘話>
真相。~初戦勝利の舞台裏~ 

text by

佐藤俊

佐藤俊Shun Sato

PROFILE

photograph byNaoki Nakanishi(JMPA)

posted2010/06/26 08:00

6月14日カメルーン戦。
迷走していたチームは、なぜひとつにまとまったのか。
遠藤保仁の証言で貴重な1勝を振り返る。

「ロスタイム、4分もあるのか」

 カメルーン戦、掲げられたボードを見た遠藤保仁は、思ったよりもロスタイムが多いなと思った。スタジアムには時計がなく、なんとなく時間を推し量っていたが、正確には掴めていない。ベンチからも時間の通知はなかった。

 日本は、カメルーンのパワープレーの脅威にさらされている。だが、4年前のドイツW杯、オーストラリア戦で味わった「いつかやられる」という恐さは感じなかった。

「いけるでしょ」

 遠藤は、勝利を確信していた。

 実はこの試合、中盤の遠藤はキックオフから7分が過ぎるまで一度もボールに触れなかった。

「出足から(本田)圭佑の頭を目掛けて、けっこうロングボールを蹴っていたからね。まあ最初はセーフティにやって、失点したくないという気持ちが強かったんだと思うけど、それにしてもちょっと蹴り過ぎやった。落ち着いてやれば全然回せるのに。ただ、みんな、すごい集中していた。あれが効いたんかなあって思ったね」

 遠藤が言う“あれ”とは、1本のビデオである。

「あんな一体感を感じられたのは、初めてやったね」

 キックオフ直前のミーティングで、選手たちは過去の日本代表戦のビデオを見ていた。身体を張って守備するシーン。身体を投げ出してゴールを決めるシーン。それは、「俺たちはチームのために戦ってきたんだ」という一体感を喚起するようなビデオだったという。戦いへのモチベーションが上がり、やがて選手の目の色が変わった。

「これってバルサのグアルディオラ監督がよくやるみたいだけど、効果はめちゃくちゃあるね。『ここまで苦しんでやってきた。あとは最高の舞台で、最高の結果を出そうぜ』って、みんな気合いが入ったから。あんな一体感を感じられたのは、初めてやったね」

 しかし、その気合いが拍子抜けするほどカメルーンは、前に出てこなかった。

 2日前に見たビデオの中のカメルーンは、本物のライオンだった。親善試合セルビア戦の映像だったが、3トップを軸にした攻撃は迫力満点で、コートジボワールに匹敵するものと言えた。「押し込まれるだろうな」と覚悟し、粘り強く守ることをボランチの長谷部誠、アンカーの阿部勇樹と確認し合った。だが、本番のピッチ上、間近で見たライオンは、借りてきた猫のように大人しく、牙すら見せることはなかった。

<次ページへ続く>

【次ページ】 コートジボワール戦の完敗が日本の守備を変えた。

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