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企業の味方、優良顧客を獲得する道。
QVCマリンで体験した感動的な夜。 

text by

葛山智子

葛山智子Tomoko Katsurayama

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photograph byNaoya Sanuki

posted2012/12/18 10:30

企業の味方、優良顧客を獲得する道。QVCマリンで体験した感動的な夜。<Number Web> photograph by Naoya Sanuki

施設命名権の売却により、2011年から「QVCマリンフィールド」となった千葉マリンスタジアム。ライトスタンドを中心に、一体感のあるマリーンズファンの応援は、他球団のファンからも称賛されている。

ソーシャル・メディアが変えた企業のコミュニケーション。

 これはあくまでも体験の一例だが、顧客の満足度やファン心理の醸成というものは、球団側が行うキャンペーンなどの施策に加え、顧客同士の関係性なども満足度を高める要因の1つになっている。また、良い経験はその顧客をファンにするだけでなく、ファンになった顧客自身がそれを周囲に広げる役割を担うことになり、さらなるファンの拡大にもつながっている。

 このように、観客がエバンジェリスト(伝道師)的役割をするファンにまで育つには、球団がサービスを顧客に提供し、顧客がその価値を受け取るという一方通行な関係だけではなく、コアなファンが球団スタッフの役割である「観客を楽しませる」ということの一部を自然と担い、球団と顧客が共に価値を創っていくことも必要なのだ。筆者の体験からは、コアファンが「応援」を通して最高の体験をもらせてくれたことも、ファン心理の片鱗が芽生えた要因の1つであった。

 近年、ソーシャル・メディアの発展などで顧客や企業のコミュニケーション(交流)スタイルに変化がもたらされた。そのため、顧客と価値を共に創ることの重要性が叫ばれ続けている。マーケティング領域での世界的権威であるフィリップ・コトラー教授もその著書『コトラーのマーケティング3.0』(2010年刊)の中で、製品・サービスの差別化をし、それを企業が顧客に一方的に伝えるだけではなく、顧客と共に価値を「共創」していく必要性を説いている。

 そして共創価値を作りだす土台となるのが、その製品・サービスに対して強く活発なロイヤルティを持つファン顧客である。

 ただしここで留意しておきたいのは、印象的な体験を与えてくれたロッテマリーンズの観客動員数は、対前年比で-7.0%と低調に終わっていることだ。これは、2010年にシーズン3位からCSを勝ち上がって日本一の座に輝き、「史上最大の下克上」と呼ばれる熱狂的な幕切れを迎えたにもかかわらず、翌2011年の成績が振るわず最下位に終わったこと。今年も5位と低調な戦績だったことが原因と考えられる。

 現実のビジネスでは、様々な要素が絡み合って結果がもたらされる。何かの施策を採ればストレートに結果に結びつくわけではないところが、ビジネスに関わる難しさでもあり、面白みでもある。

 しかしもし、球団がファンに対して熱心に働きかける施策をとっていなければ、入場者数の減少はもっと著しいものになっていたのではないか、と考えるのは私一人ではあるまい。

顧客の行動変容プロセスを示すAMTUL。

 では、顧客はどのように高いロイヤルティを持つようになるのか。

 1つの考え方として顧客がロイヤルティを持つまでの行動変容プロセスを示すフレームワークの1つにAMTUL(アムツール)というものがある。

図表

 顧客はいきなりロイヤルティを形成するのではなく、その段階に至るまでのプロセスがあるのだ。AMTULはそのプロセスを表すフレームワークの1つであるが、残念ながら全顧客がこのプロセスを自動的に進んでいくのではない。顧客がプロセスを進んで高いロイヤルティを持つに至るには、顧客同士や企業との交流、商品・サービスを通してのポジティブな経験などが必要になる。その役目をするものの1つこそ、プロモーションである(実は、このAMTULモデルはプロモーションを考える際の土台となるフレームワークだ)。

 マーケティングの中でもプロモーションについて関心のある読者も多いと思うが、プロモーションではその施策の派手さや地味さなどに終始することなく、顧客の中にロイヤルティを形成することを最終目的として、顧客をプロセス上のどの状態からどの状態に進んでもらうような体験や経験を作りだすことができるのかを考えながらプラニングと実行を行うことが重要である。

【次ページ】 シャンプーの「メリット」が売れ続ける理由。

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