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“皇帝”のラストレースは7位……。
シューマッハー、引退までの心を追う。 

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尾張正博

尾張正博Masahiro Owari

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photograph byGetty Images

posted2012/12/02 08:01

“皇帝”のラストレースは7位……。シューマッハー、引退までの心を追う。<Number Web> photograph by Getty Images

ラストレースとなったブラジルGPのパドックにて。マシンのサイドには「ありがとう、そして、さようならマイケル」とのステッカーが。

ブラジルGPを終え「最後のレースは最高に楽しかった」。

 しかし、この引退発表を知っていたのは、この時点でケームと妻のコリーナだけだった。ブラウン代表とメルセデス・モータースポーツのノルベルト・ハウグには何も知らされていなかった。

 会見の5分前になって、その事実をシューマッハーから知らされたブラウンとハウグに、翻意を促すだけの力はなかった。

 シューマッハーの決断は間違ってはいなかった。引退を発表した日本GP以降、メルセデスAMGは優勝争いどころか、入賞もできない日々が続いた。

 シューマッハーをデビュー戦から取材し続けているドイツ人ジャーナリストのミハエル・シュミットは、シューマッハーの2度目の引退を次のように考察する。

「ミハエルにとって、レースは勝つために行う場だった。お金や記録、そして名誉よりも、勝利がすべてだった。しかし、いま彼にはその勝利を手に入れるだけの力が自分にはないことを悟った。ただレースを続けるだけなら、夏前にメルセデスAMGと契約を延長していただろう。でも、ミハエルは勝てないレースを続けていくことが我慢ならなかった。だから、メルセデスAMGから契約の延長を何度も促されても、応じなかったんだ。今回の引退が、ハミルトンが移籍したことで弾き出されたように見えるかもしれないけど、実際にはミハエルは自分から引退の道を選んだと言ってもいい」

 ラストレースは'06年と同じブラジル・インテルラゴス。6年前の引退レースでは怒濤の追い上げを見せて、勝利を目指しながらも4位に終わり、惜しまれつつ引退した。しかし、今年は違った。常に勝つことしか考えていなかった男が、最後のレースで初めて異なるアプローチでチェッカーフラッグを目指した。そして、レース後、こう語った。

「最後のレースは最高に楽しかった」

 勝利を目指していた皇帝が、人間に戻った瞬間だった。

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ミハエル・シューマッハー
メルセデスAMG

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