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超大型新人・井上尚弥が
自室に貼った「戒めの言葉」。
~プロ転向初戦、鮮烈なKO劇~ 

text by

前田衷

前田衷Makoto Maeda

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photograph byBOXING BEAT

posted2012/11/04 08:00

超大型新人・井上尚弥が自室に貼った「戒めの言葉」。~プロ転向初戦、鮮烈なKO劇~<Number Web> photograph by BOXING BEAT

異例の8回戦デビューを飾った井上。強烈な一撃を浴びたオマヤオはしばらく立てなかった。

 19歳の超大型ルーキーが鳴り物入りでプロに転向した。10月2日、超満員の後楽園ホールで井上尚弥はフィリピンの現役王者オマヤオを4回の左ボディーアッパー一撃でKOした。逸材と言われた選手のプロ転向も珍しくないが、近年これほど注目された例は記憶にない。

 怪物とも称される井上について、メディアは「天才」と書きたてるが、小学1年生から指導してきた父・真吾さんは「そうではない」と言う。息子とともにトレーナーとして大橋ジム入りした父は根っからのボクシングマニア。選手としては2戦のアマ歴しかないが、緻密で質の高いボクシングを息子に身につけさせたのには驚かされる。海外のビッグマッチをビデオに収め、トップ選手の長所を吸収させてきた。その成果なのか、デビュー戦で井上はノニト・ドネアを真似た左フックをさりげなく出していた。

 気の強さこそ自他ともに認めるところだが、リングを降りた井上はおとなしそうで怪物というより草食動物のイメージ。勝利にも「内容はまだまだ。自分の中の半分も出せなかった」と笑顔はない。打ち合いの際に被弾したことが反省材料だったが、アマチュアから転向した誰もが苦戦するデビュー戦だったことを考慮すれば楽々合格点だろう。井岡一翔よりも早い世界挑戦についても「その時に実力が伴っていれば、やりたい。でもお父さんを納得させるのが大変です」と慎重だ。

金メダリストの村田が「化け物」と語る、軽量級離れした強い拳。

 元々軽量級ばなれした強い拳を持つ上、積極的にカウンターを狙う戦法はリスクもあるが実にスリリングだ。リング外の言動ではなく、ボクシングそのものでファンを引きつける魅力が備わっている。

 だが、そんな井上でも昨年の世界選手権でベスト16に終わり、紙一重の差でロンドン五輪代表になり損なった。

 ロンドンで紙一重の差で勝ち抜いて金メダルを掴んだ村田諒太は、全日本合宿などで一緒になった井上をこう評した。

「彼は間違いなく化け物。それでも、あの歳では五輪には行けないんです」

 村田の言葉は経験さえ積めば必ずや活躍をするという期待の表れ。そして今、井上は自分の部屋に「紙一重」と書いて貼り自らへの戒めとしている。周囲の期待を一身に集めながらも謙虚で“草食系”の一面をのぞかせる19歳は、21世紀の怪物クンなのかもしれない。

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