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敏腕サッカー代理人が説く、
ビジネスとの向き合い方。
~『世界基準の交渉術』を読む~ 

text by

飯尾篤史

飯尾篤史Atsushi Iio

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posted2012/09/12 06:00

敏腕サッカー代理人が説く、ビジネスとの向き合い方。~『世界基準の交渉術』を読む~<Number Web> photograph by Sports Graphic Number

『世界基準の交渉術 一流サッカー代理人が明かす 「0か100か」のビジネスルール』 ロベルト佃著 ワニブックス 1300円+税

選手の給料未払いが起これば“取り立て屋”にもなる!?

 FIFA公認の代理人であるロベルト佃は、アルゼンチン生まれの日系3世。大学時代に電気工学を専攻し、その分野の日本語―スペイン語の通訳として活躍していた。それがサッカーに関わるようになったのは、横浜マリノスがアルゼンチン人監督を招聘し、その通訳を務めることになったからだ。'95年のことである。

 その後、'01年に代理人業を開業し、中村俊輔、長谷部誠、長友、岡崎慎司、阿部勇樹といった日本を代表する選手たちの移籍を手掛け、最近では韓国や欧州、南米の選手もサポートしている。

 6カ国語を操り、世界各国を飛び回って交渉のテーブルに着く。オーナー同士の会食に参加することもあれば、選手に給料が支払われないことが日常茶飯事の国では、自ら取り立てに出向くこともある。契約内容を平気で破る者もいれば、駆け引きのための嘘も飛び交う――そんな世界で生きる彼によって、世界基準の交渉術の一端が明らかにされていく。

交渉のエッセンスに散りばめられた、著者の日本に対する愛と誇り。

「交渉事に『負け』はない」「相手に勘違いをさせる」「プロは安堵してはいけない」といった交渉のエッセンスがちりばめられた本書を読み進めていくうちに気付くのは、ロベルト佃の日本に対する愛情や感謝、誇りの念だ。

 家の中は“日本”、外は異文化という環境で育った彼は「日本に来たことによって人生が好転」し、「日本人以上に日本が好きだという自負がある」という。そして今、世界と渡り合う日本人選手とともに戦い、日本人の可能性を確信しているのだろう。日本の選手がもっと正当に評価されてほしいと願い、日本のビジネスマンに対しても「“メイド・イン・ジャパン”を、世界へ発信するという重責を甘く見てはいけない」と説く。そう、本書は日本のビジネスマンに対する叱咤であり、エールでもあるのだ。

 最後に、日本サッカーへの提言もなされているのは、サッカーファンとして嬉しい。サッカービジネスに生きる真のプロの言葉は、Jクラブにとって耳を傾けるべき価値のあるものばかりだ。

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