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<ナンバーW杯傑作選/'09年7月掲載> 岡田武史 「ベスト4の理由」 ~現実主義者が掲げた夢の真相~ 

text by

二宮寿朗

二宮寿朗Toshio Ninomiya

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photograph byTamon Matsuzono

posted2010/06/02 10:30

<ナンバーW杯傑作選/'09年7月掲載> 岡田武史 「ベスト4の理由」 ~現実主義者が掲げた夢の真相~<Number Web> photograph by Tamon Matsuzono

現実主義者・岡田武史の思想は変わったのか?

 確かに岡田の頭のなかで本大会に向けた青写真は描けている、と実感できる。しかしながら、「ベスト4」という大望を、どこまで現実的に捉えればよいものか。まだまだ指揮官と、世間には大きなギャップがあると言っても過言ではあるまい。

 横浜F・マリノスの指揮官時代、「目標というのは手に届きそうで、届かないぐらいのギリギリのところに置かなければならない」という言葉を、何度か聞いたことがある。その言葉どおり、頑張れば何とか手に届きそうな目標値の勝ち点を追いかけた結果、マリノスは'03年に両ステージ制覇を果たし、翌年も2年連続で年間優勝を成し遂げている。少しさかのぼれば、岡田は、フランスW杯の際「1勝1分け1敗」でのグループリーグ突破という目標を掲げた。手に届くかもしれないと誰もが思えるところをズバリ狙ってきた。

 現実主義者だったはずの岡田武史の思想が変わってしまったのか。それともハードルを上げることで、選手の意識を高めようとしているのか。その疑問をストレートにぶつけてみた。彼は静かに、諭すように答えたが、それでいて言葉には力がこもっていた。

「目標には、最終目標と経過目標というのがある。一番上の目標だけを見て、よし、ベスト4になる! といってもなれるわけがない。まずW杯の出場権を取らなきゃならない、アジアで勝つためにはこういうことをしなくちゃいけない、じゃあ、それをやるために日々何をするんだと。そういった目標はある程度達成感を味わえるものでなくてはならない。もちろん、最終目標というのも、手が届かないものじゃダメ。僕は手が届くと思っているからベスト4だと言っている。周りの人は信じていないかもしれないけど、新しいことをやろうとすると必ず耳元で“ドリームキラー”がささやくもの。『そんなの無理だよ』ってね。それを乗り越えていくかどうかの違い。乗り越えていけるかどうかなんて分からない。でも乗り越えようとしない限り、できない。それに向かってチャレンジするだけの話」

“ベスト4”を実感してもらうために強国と戦いたい。

――何故、ベスト4?

「僕も、ベスト4に入ったことはない。日本人は誰もいないわけですよ。ただ、僕はいろんな試合を見たり、年齢とともに経験を積んでますから、ベスト4っていうのはこれぐらいじゃなきゃいけないな、という想定が僕のなかにある。そこにたどりつくためにはもっと質を高めなきゃいけないし、精度を上げていかなきゃいけない。今のままじゃ無理だと選手には言ってます。これは僕のあくまで想定。たとえば本当にベスト4に入るチームと試合をしてみたときに、なるほどなって分かると思うんですよ。僕の想定って当たっていると思っているから。そういう意味でより選手に実感を持って取り組んでもらうためにも、自信を持ってもらうためにも、強いチームと試合をしたい。それはボロボロにやられようが何しようが何試合でもやりたい」

――ベスト4という目標に向けて、今のサッカーにどんな味つけが必要だと?

「たとえば攻守の切り替えが10回あったら6回まで速くできているとき、まずこれを8回にしようよ、と。こういった一つ一つの積み重ねが、ベスト4につながっていく。味つけというよりもより質を高めていかなきゃいけない。ミスパスが多かったら、僕らのサッカーはできないし、パスの質だけでなく、運動量も上げなきゃいけない。ボール際だって強くならなきゃいけない。全体のことを上げるとともに、どんな状況でもタフに戦えるようになる必要がある」

【次ページ】 ドイツW杯の悪夢をなぞるようだったオーストラリア戦。

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