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南アフリカでの失意から2年を経て、
中村俊輔が取り戻したプレーの輝き。 

text by

細江克弥

細江克弥Katsuya Hosoe

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photograph byAFLO

posted2012/08/18 08:01

南アフリカでの失意から2年を経て、中村俊輔が取り戻したプレーの輝き。<Number Web> photograph by AFLO

限界説もささやかれていたが、ここ数年で最高のプレーを見せている中村俊輔。年齢を重ねても、彼の類いまれなセンスは全く損なわれてはいない。

司令塔としてだけではなく、得点に絡む意欲も十分。

 中村はそれ以後も右サイドと左サイドを行き来し、捉えどころのないポジショニングで攻撃の起点を作った。ボールが足下に収まれば巧みなコントロールで相手のプレスを軽くいなし、時にはダイレクトでシンプルに、時には相手を十分に引きつけてから周囲を使う。たとえライン際に追い込まれても、カウンターを食らうようなボールの奪われ方はしない。相手の足に当ててタッチラインの外に出す、ファウルをもらって次の展開に切り替えるなど、とにかくタダではボールを失わない。

 特に、前を向いてボールを持った際の選択肢の多さは特筆に値する。外への展開を匂わせて縦に速いパスを入れるなど、リズムの緩急だけで相手との駆け引きを制す攻撃センスは群を抜いていた。

 自らがフィニッシュに絡む意欲も十分だ。23分にはゴール前に飛び込み、左サイドからのクロスを引き出す。決してヘディングが得意ではない中村が大黒将志のシュートを引き出すポストプレーを成功させた背景には、やはり流れの中で有効なスペースを見極める戦術眼がある。

 35分には右サイドのタッチライン際からピッチを横断するライナー性のサイドチェンジを披露。これもまた彼の代名詞であるグラウンダーのロングフィードだが、あの球質であの距離を蹴れるのはおそらく彼しかいない。直後の40分には同じく右サイドのタッチライン際から右足で斜め方向にダイレクトパス。右サイドに流れながらオフサイドラインを抜け出そうとしたマルキーニョスとの呼吸が合わなかったものの、これも通れば1点という決定的なラストパスだった。何より後方から受けたパスをダイレクトで、しかも右足から繰り出されたスルーパスは相手に飛び込む隙を与えなかった。

駆け引きを楽しむ余裕と、抜け目ない戦術眼を併せ持つ。

 プレースキックで3つのゴールを演出した後半は、前半とは大きく役割を変え、一歩下がった立ち位置からチームメイトの特徴を引き出すプレーに専念した。79分には久々にゴール前に侵入し、相手に飛び込ませない独特の間合いから一気に加速。小野とのワンツーで決定機を作った。

 2-2で迎えた82分、横浜FMの樋口靖洋監督は勝負に出た。右サイドバックの小林に代えてMF谷口博之を投入し、ボランチの一角を担っていた兵藤慎剛を右サイドバックに配置する。谷口は右サイドMF、中村は富澤清太郎と並ぶボランチに位置した。

 87分の逆転弾を演出したFKはもちろんだが、ポジションを変えて以降、試合状況に応じたプレースタイルの微妙な変化も秀逸だった。逆転弾を奪う“前”と“後”では、明らかにプレーの選択肢が異なる。攻撃にリスクを伴わせるのか、それとも一切のリスクを排除するのかの判断は、ボランチに位置する中村の選択に委ねられていたと言っていい。中村は最後まで、相手との駆け引きを楽しみ、抜け目ないしたたかな戦術眼で勝利を呼び込む司令塔として、その存在感を誇示した。

【次ページ】 失意の南アW杯以降、存在感を失っていた中村だが……。

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