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<ナンバーW杯傑作選/'06年7月掲載> ついに生まれなかった闘争心。 ~ドイツW杯をデータで徹底分析~ 

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戸塚啓

戸塚啓Kei Totsuka

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photograph byShinji Akagi/Koji Takano(JMPA)

posted2010/05/28 10:30

<ナンバーW杯傑作選/'06年7月掲載> ついに生まれなかった闘争心。 ~ドイツW杯をデータで徹底分析~<Number Web> photograph by Shinji Akagi/Koji Takano(JMPA)

日本の攻撃は圧倒的にショートパス偏重。

 ロングパスも少なかった。269本はセルビア・モンテネグロ、イラン、サウジアラビア、クロアチアに次ぐ少なさである。

 その一方で、ショートパスの数は878本ある。グループリーグで敗退した16チームのなかでは、コートジボワール、韓国、コスタリカ、チェコ、ポーランドに次いで多いのだ。

 それぞれの国のロングパス数はどうか。コートジボワールは272本、韓国は319本、コスタリカは292本、チェコは324本、ポーランドは294本である。主観の入り込まないデータは、日本の攻撃がショートパス偏重だったことをはっきりと示している。

 中盤を省略したロングボールには、DFラインを上げられるメリットがある。同時に、パスを受けたFWがボールを収めれば、カウンターへつながっていく。前線で起点を作られることがDFラインにどれほどストレスとなるのかは、オーストラリアのビドゥカに身をもって味わわされた。

 裏へ抜け出す動きも少なかった。高原と柳沢が先発した2試合で、日本は4回しかオフサイドにかかっていない。FW陣が日本より鈍重なオーストラリアとクロアチアのほうが、オフサイドは多いのである。それだけ裏を狙う動きをしていた、ということだ。

 クロアチア戦の開始10分に、中田英が高原へのスルーパスを狙った場面があった。しかし、2人の呼吸が合わずにボールは相手にわたってしまう。現地のテレビで解説をしていたリトバルスキーは言った。

「高原の動き出しが遅い」

 相手DFが思わず反則を犯すのは、クサビのボールをしっかりキープした場面と、背後のスペースを突いた場面に集中する。高原と柳沢は、どちらの仕事も満足にこなせなかった。これでは、チームの強みを引き出せるはずがない。直接FKを獲得できない。

ファウル数と被ファウル数の少なさが意味するもの。

 中村俊輔がFKから直接ゴールを狙ったのは、3試合で計5度だけだった。理由は2つある。日本のFWが相手DFにストレスを与えていなかったからであり、2列目からの後方支援が乏しかったからである。

 被ファウルの数が分かりやすい。3試合で45回という数字は、参加32カ国で5番目に入る少なさである。足元から足元へパスが交わされる、変化の乏しい攻撃が思い浮かぶ。タテを突く動きが少なく、相手の脅威となっていなかったのだ。

 ここでも気になったのは選手の意識である。

 今大会の日本のプレーからは、スコアや時間帯への意識というものを読み取れなかった。3試合で7失点も喫したチームの反則がこんなに少ないのはどうしてなのか。フェアプレー精神を遵守する以前に、やらなければいけないことはあったはずだ。身体が動かないのなら、ファウルで止めるしかない。それとも、ファウルさえできないほど疲れていたのか。

 そうではない。断じてない。中田英を除けば、エネルギーは枯渇していなかった。

 勝利を義務づけられた試合でポジションやバランスを言い訳にするのは、責任の放棄だと私は思う。日本と戦ったオーストラリアは90分を通じてバランスを保っていたか。守備が手薄になるのを覚悟で攻め立てた結果が、84分からの逆転につながったのだ。

 ひるがえって、日本はどうだろう。ポジションごとの仕事をこなそうとするだけで、勇気あるチャレンジに挑む者は皆無だった。パスを出したら終わりというプレーを、嫌というほど見せられた。

【次ページ】 日本のベンチは気楽な観戦者の集まりのようだった。

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